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スピーの弯曲

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 日々の自分の臨床の中で大切にしているものの中のひとつに咬合平面がある.咬合平面とは,簡単に言うと,歯列を構成する各歯の咬む面で構成される平面だ(写真左).といっても,全くの平面ではなく,それは多少弯曲している.側方から見ると,前歯から小臼歯,そして大臼歯にむかって緩やかに上方に向かって反りあがっている(写真中).そして,前後方向から見ても,咬合平面は下を凸にして緩やかに弯曲している(写真右).

 スピーの弯曲とは,側方から見た場合の緩やかに上方に反り上がる弯曲のことだ(写真中).

 写真は下記の文献から引用.

 参考文献:Martin Gross.The science and art of occlusion and oral rehabilitation. London, Quintessence Publishing,2015.

 

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 なぜ,このような弯曲が存在するかというと,それは顎骨の中で各々の歯の軸が少しづつ異なっていることに由来する(写真).そして,なぜ咬合平面が重要かというと,その理由の一つには快適に,よく咬める状態にするために必要だからである.

 咀嚼する際に,下顎骨は上顎骨に対して単純な上下運動だけのタッピングをしているわけではない(凍えた時には,ガチガチ歯を鳴らしてタッピングしているだろうが).咀嚼する際の下顎骨の運動について述べると,下顎骨は中央から,一旦,側方かつ後下方に移動する.そこから再び元の位置に戻ってくる際,上下の歯が接触して,両者の間に挟まっている食物が破砕され,最後の終末位(咬頭嵌合位)でものがぐちゃっと潰されてこなれる,という具合になっている.

 スピーの弯曲は,下顎の咀嚼運動において,上下の歯が不必要に終末位以外で接触しないようにする為に必要なのだ.また,上下の歯列間の間隙を適切に保つためや,食べ物を歯の咬合面というテーブルに乗せて咬み砕きやすいようなお膳立てをするためにも役立っている.

 さらに,スピーの湾曲は,咀嚼以外にも,非機能運動であるブラキシズムにおいて,犬歯誘導が適正に機能して臼歯のディスクルージョンを保証するためにも必要であり,このためにも重要だ.

 

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したがって,右のパノラマX線写真のように,スピーの湾曲が逆転している場合は,咬みにくさにつながり,是正されることが望ましい.

咬合平面は,咬みやすさの問題だけでなく,全身の姿勢や腰痛などの問題にも関係しているので重要だ.詳細については,本HPの”Dentist"に書いたので,よかったら読んでいって欲しい.

 

www.nakayamadental.com/contents/2016/10/post-19.php

 

 

歯周病の最新病因論~歯周病は歯周組織と歯周病原菌との共生関係の破たんで発症する~

歯周病のことについて書こう.歯周病の病因論も,21世紀になってかなり変わってきた.どういう風に変わったかというと,以下のようになる.

1) 20世紀の病因論では,歯周病の原因菌は10数種存在していたが,21世紀の病因論では,レッドコンプレックスと呼ばれる,Porphyromonas gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス),Tannerella forsythia(タネレラ・フォーサイシア,Treponema denticola(トレポネーマ・デンティコーラ) の3菌種に限定された.中でも最強に悪い主犯格が,P. gingivalis(ポルフィロモナス・ジンジバリス)と考えられるようになった.

2)20世紀の病因論では,歯周病菌の病原性が変化することは知られていなかった.21世紀の病因論では,バイオフィルム内の歯周病原菌の病原性はポケットの環境によって変化することが知られるようになった.つまり,ポケットに出血があるとき,病原性が高まることが明らかとなった.

3)20世紀の病因論では,歯周病の発症や進行に個人差があるのは,免疫力に個人差があるからだと考えられていた.21世紀の病因論では,歯周病の発症や進行に個人差があるように見えるのは,バイオフィルムと歯周組織の間の共生関係のあり方が個人,個人で異なるからだと考えられるようになった.つまり,ある人に歯周病菌が感染してもその人の歯周組織の抵抗性が強ければ発症せず共生関係を築く(つまり,共存共栄関係を築く)のだが,歯周病菌の病原性と歯周組織の抵抗性のバランスが崩れて,歯周病原菌の病原性が歯周組織の抵抗性を上回るようになった時,歯周病が発症すると考えらるようになった.つまり両者の共生関係が破たんした時,歯周病が発生すると考えられるようになった.

という風に,歯周病学が変化している.上記の内容は下記の文献を参考にしているのだが,この本の最後の方で,「歯周病は完治させられない」という身も蓋もないことが書かれている.そんなことを患者さんが聞くとがっかりするだろうから,一言フォローすると,完治させられない理由は,歯周病菌がポケットを構成する粘膜上皮の表面に存在するにとどまらず,粘膜を構成する細胞の中にまで入り込んで免疫システムから逃れようとするものだから歯周病原菌を完全に除菌することが不可能となる,という意味で「完治させられない」と表現されている.しかし,最新の病因論をよく理解すれば,歯周病はコントロール可能な疾患であることがわかる.つまり,歯周病原菌と歯周組織との共生関係を継続させることができれば,歯周病は発症,進行しないということを言っているのと同じことなのだ.そして,歯周病原菌と歯周組織との共生を継続させることは歯周病学的に可能なので,歯周病になっている人や,歯周病になることを恐れている人はどうか安心して欲しい.

参考文献: 天野敦夫.21世紀のペリオドントロジー.東京:クインテッセンス出版,2016.

オステルメンター

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今日は,2カ月前に抜歯,即時インプラント埋入したインプラントのオステルメンター検査を行った.オステルメンターとは,磁気パルスによってISQ値(インプラント安定指数:インプラントと骨との結合の強さの度合いを示す数値)を非侵襲的に測定するデジタル検査機器だ.

埋入したインプラントはストローマンBLT,SLActiveインプラント,Roxolid.

 

 

 

 

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4方向から照射した検査結果は,左上2が68,68,68,68,左上3が73,74,73,74だった.GBRを同時併用しての埋入後60日であることを考慮すると,この数値は極めて良い(70を超えたら,安心して荷重かけてよし).左写真は60日前の抜歯窩にインプラントを埋めた際の撮影である.インプラント体は抜歯窩に突き出た状態で,わずかに先端部のみが既存骨にねじこまれている状態だった.この状態から,たった2カ月で70以上の数値を出せるとは,SLActive Roxolidの表面性状は凄い!

 

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インプラント埋入後,60日目の治癒状態.インプラント周囲粘膜の炎症はなく,治癒良好だ.

 

利益相反(COI)

 ここ2,3年前から,学会発表や論文投稿の際,”利益相反(COI)”の申告が義務づけられてきている.”利益相反(Conflict of Interest:COI)”とは,ある行為が,一方には利益になり,同時に他方には不利益になる状態のことである.たとえば,大学に所属している研究者がある試料の科学的な試験結果を社会に報告する際,その研究結果がネガティブなものであれば,それを科学的に,公正な立場で社会に報告することは大学と社会にとって利益である.しかし,その研究に直接かかわった個人としての研究者,および対象となった試料を提供している企業にとっては不利益である.なぜなら,その研究者が研究費なり,寄付金なりをその企業からもらい受けていたり,何らかの契約関係にある場合,企業に対して不利益をもたらすことは自己の利権を損ねるからである.このような場合,研究者は良心と利権との板挟みとなり,結果,データに手加減を加えたりするかもしれない.当然,公表される調査結果は信憑性が低下するだろう.

 だから,科学的研究を社会に報告する際は,研究発表者が企業などと”利益相反”状態にあるか,ないかは,その報告の信憑性にかかわる重大事項なのである.大学が公正な立場で科学的事実を社会に発表することは社会貢献であるが,産学連携の必要性が謳われている昨今,現場では,利益相反状態の下で仕事をしていかねばならない研究者は多いだろう.今後,ますます,研究者の良識が問われることになる.

 

顎関節症の原因

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開口障害,関節痛,関節雑音を三徴とする顎関節症は,その罹患率が高いわりに,原因や治療法について,あまり一般には知られていないように思う.

以前は咬み合わせの不正が主な原因と考えられていたが,最近では咬み合わせの不正はメジャーな原因ではなく,TCHやブラキシズム(咬み締めや歯ぎしり),そしてストレスがメジャーな原因と考えられてきている.

今日は顎関節症について,本HP内の”Dentist”に詳しく書いたので,よかったら読んで行って欲しい.

www.nakayamadental.com/contents/2016/10/post-21.php

 

 

 

 

親知らずは抜歯した方がよい理由

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 親知らずはまっすぐに生えずに,手前の歯にもたれかかるように斜めになって,長期間,埋もれたまま経過することが多い.このような場合,親知らずの周りには深い歯周ポケットが形成されるのが常なので,手前の第二大臼歯に致命的なダメージを加えることになる.よくあるのは根面齲蝕と慢性辺縁性歯周炎だ.これらが重症になると,親知らずと同時に抜歯しなくてはならない.咬合機能からみれば,これは手痛い損失なのだ.

 右デンタルX線写真は,親知らずの典型的弊害だ.ひどく根面が侵されている.こうなると,親知らずといっしょに第2大臼歯も抜歯することになる.早めに親知らずは抜歯しておいた方が良いという根拠だ.

 

 

下顎側方運動時の臼歯離開の重要性

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このデンタルX線は右下顎大臼歯部の辺縁歯槽骨の吸収を示している.当然,歯周ポケットは深くなっている.

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同側の対合歯部もやはり辺縁歯槽骨の吸収を認める.口腔の特定の部位にのみ,このような著しい骨吸収を伴う歯周ポケットの深化を認める場合,咬合性外傷を疑わねばならない.つまり,絶え間なく,上下の歯同士がぶつかり合っている状況だ.

 

 

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上記のレントゲン写真の実際の口腔を見てみると,強い咬みこみが見られる.つまり,鋭い咬頭(咬む面のとがった部分)と窩(咬む面のくぼんだ部分)をもつ上下の歯列が,咬頭と窩がしっかりはまり込んだ状態で接触している.この写真は,下顎を少し右方にスライドさせてもらった時に撮影しているが,上下の大臼歯は接触したままだ.これでは,下顎を側方に動かそうとしたら,上下の大臼歯にそれぞれ横向きの力がかかってしまう.つまり,絶え間なく揺さぶられている.これが骨吸収を加速させる原因だ.

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よいといわれている咬み合わせは,上の写真のようなものだ.これは別の患者さんであるが,下顎を右方にスライドさせたとき,犬歯のみがコンタクトして,それ以降の臼歯がすいている.この現象は,側方運動時の臼歯離開(ディスクルージョン)と呼ばれ,歯を健全に長期間保つために必要な重要な咬合様式と考えられている.歯周病で歯を支える組織が減少し,支持能力が弱っている場合,なるべく側方運動時には臼歯離開させた方がよいのである.

 

TCH(上下歯列接触癖)

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 TCH(Tooth Contacting Habit 上下歯列接触癖)は臨床でよく遭遇する.TCHとは,食事以外の時に上下の歯列を接触させる癖のことで,知覚過敏や歯の慢性咬合痛,歯冠破折,歯周病の悪化,顎関節症などの原因になるといわれている.だから,口腔の健康のためには良くない習慣だ.改善することが望ましい.

 その存在がなぜ,一瞥しただけでわかるかというと,頬粘膜が咬合面に沿って,口腔の入り口側から喉側に向かって,筋状に白く隆起しているからである.

 この習慣のマイナス効果を正確に患者に伝えられるのは歯科医師しかいないので,これを見つけるたびに,この習慣をやめるように指導している.具体的には,その為害性を患者さん自身に認識していただき,自らやめるように努力することを促すのである.

 

オンラインストア

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 便利な世の中になったものだ.インプラント治療に必要なパーツの種類はものすごく数が多いので,その購入の際,以前なら正確を期すために,そのリストをPCで作製し,それをインプラントメーカーの配送部にFAXしていたのだが,最近では,これらはオンラインストアで入手できるようになった.

 今回,当院では使用していないノーベルバイオケア社のインプラントの上部構造をやり替える必要があるケースに遭遇し,パーツの購入をオンラインストアで試みた.ノーベルバイオケア社のオンラインストアは,その商品のラインナップがメチャメチャ豊富で,なかなか目的のパーツにたどり着けない.なにせ,インプラントの種類だけでも列記すると,

ブローネマルクシステム マークⅢ,ブローネマルクシステム マークⅢグルービー,ブローネマルクシステム マークⅢショーティー,ブローネマルクシステム マークⅣ,ノーベルスピーディー・グルービー,ノーベルスピーディー・ショーティー,ノーベルアクティブ,ノーベルテーパードCC,ノーベルテーパードCCPMC, リプレイスセレクト テーパード,ノーベルセレクトテーパード,ノーベルリプレイス・テーパード,ノーベルリプレイスPSインプラント,リプレイスセレクト・ストレート/リプレイスセレクトTC,ノーベルリプレイス・ストレート,ノーベルスピーディーリプレイス,などなど,笑ってしまうほどややこしいのだ(ここまで,HPを見ながら必死で書き写した).

 

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 しかしながら,コンピューターの威力は絶大で,正確にクリックさえすれば,間違いなくその商品が届く.クリック操作で決済できるシステムは,基本的にはよい.昔のように,係員が勘違いしてはいけないからと,こちらが正確にリストを創る手間が省けるからだ.そして,最近の物流業界はものすごく進化していて,発注したら翌日にはもう商品が届いたりしているのは非常に良い.

 こういったIT技術の導入は時代の流れであって,もはや逆らえず,その良い面を評価し,積極的に活用して行きたいと思っている.それにしても,ノーベルバイオケア社の商品って品数がメチャクチャ多いな.

 

抜歯後の止血処置

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右のデンタルX線写真の上顎5番の根尖には大きな透過像があり,抜歯の適応です.このような歯を抜歯した場合,通常,ガーゼを30分程度咬んでいただいて,止血を図ります.しかし,ガーゼを咬まなくとも,抜歯後,即座に止血させる方法があります.それは,抜歯窩に何らかの物質を詰めることです.通常,市販の吸収性コラーゲンを使用しますが,あえて市販のものを使わなくとも,止血させる方法は他にもあります.自己血から取り出して遠心分離で創るフィブリンです.

 

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通常は,抜歯窩は何もせず,ガーゼを咬んでいただき血餅ができるのを待ちます.この,血餅の中には,治癒が正常に起こるのに必要なすべての成分が含まれているので,血餅を確実に抜歯窩に満たしておけば,治癒を迎える準備としては一応,OKです.

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ところで,この抜歯窩に自己血から生成されるフィブリングルを詰めておけば,さらに止血と治癒が確実になります.フィブリンの中には,抜歯窩の内部に自然に湧き出てくる血液の塊に比較して,治癒に必要な物質が,何倍も濃い濃度で充満しているからです.

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この方法だと,即座に止血ができるので,即時にテンポラリーブリッジの製作も可能です.


 

  

 

 

 

 

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