院長ブログ
歯根破折を起こす確率とその上部に乗せる全部被覆冠のマテリアルとは関係ない
根管充填を終えて、その上部に全部被覆冠を乗せて治療を完結させたとしよう。その歯が、将来、歯根破折を起こす確率と上部に乗せる全部被覆冠の質(例えばジルコニアフルミリング冠、メタル冠、ポーセレンメタルボンド冠、ポーセレンジルコニアボンド冠、レジン前装冠、セラミックCAD/CAM冠など)とは関係があるのだろうか。そういう疑問を持っていたところ、ヒントになる論文を見付けた(1)。
その論文の報告によると、根管充填を終了した歯が歯根破折を起こす確率と、上部に乗せる全部被覆の質とは相関関係がない。むしろ、歯根破折と関係する要因は、支台築造をファイバーポストとレジンのコンビネーションにするか、ファイバーポストを使用せずレジン単独にするか、の違いの方が大きく関係する。ファイバーポストを使用した方が破折しにくい。
この結論から類推すると、2008年の時点では調査対象にジルコニアフルミリングクラウンはまだ入っていなかったが、現在同様の調査をジルコニアを含めて行えばやはり同様の結果になるのではないかと思う。つまり、根管治療を終えた歯にジルコニアフルミリングクラウンを乗せようと、e-max cad/cam冠を乗せようと、ゴールド冠を乗せようと、金銀パラジウム合金を乗せようと、咬合調整を完璧に行っておけば、上部に乗せるフルクラウンのマテリアルの差は歯根破折のリスクにあまり関係しないのではないか。ただし、この疫学調査は各施設間で咬合調整能力に差がないという前提で行われる必要があるが。
参考文献:
(1)J Endod. 2008 Jul;34(7):842-6.
Salameh Z1, Sorrentino R, Ounsi HF, Sadig W, Atiyeh F, Ferrari M.
マイクロスコープ
今日、高松市歯科医師会の学術講演会でマイクロスコープの有意義な話を聞いてきたので、今日のテーマはマイクロスコープにしよう。本日の講師は磯崎裕騎先生。彼はわれわれの歯科医師会の会員であるが、Dr.ビーチから直接薫陶を受け、現在PD(Proprioceptive deriviation固有感覚由来)システムとして知られる人間の生理的感覚に根差した合理的な身体の動きを診療のベースとする歯科診療哲学の伝道者として全国を講演しておられる多忙でご高名な先生である。その磯崎先生のマイクロスコープ入門セミナーを地元高松で半日コースで聴講できたのはラッキーといえる。
さて、マイクロに関しては、ある疑問があったのだが、本日の講演を聞いてその疑問は解消された。当初の疑問とは、マイクロは大きな顕微鏡なので一度、患者さんの口の上に設定すると、治療中に対物レンズの位置をそうしょっちゅは変えることはできないはずで、そうであるなら対物レンズをあまり動かす必要のないエンドには適応できるが、支台歯形成などの補綴治療や歯周外科手術、レジン充填などの保存修復、エンドサージェリーなどは見たい方向は一方向だけではなく、対象を360度ぐるぐる四方から観察する必要があるのだが、その場合は見たいところに術者の体位を移動させれば見にいけるガリレアンルーペの方が機動力というか、見たいところに直観的な体の使い方でアクセス出来るわけだから、マイクロは歯科臨床のあらゆる局面で活用することが少々難しいのでは?という懸念であった。
しかし、その懸念は誤りだった。結論から言うと、マイクロスコープ下でも削りたい歯を360度ぐるり四方から見渡すことは可能であることがわかった。それがPDシステムの真骨頂で、デンタルミラーをうまく指先でコントロールすることで、すべての見たい面をミラーで見ることが可能なのだ。この時、上体は動かさないので対物レンズはそのままで、ミラーの位置だけ変えることで目は同一方向から対象周囲を観察し、歯のすべての面をプレパレーション出来る。つまり、ミラーテクニックをマスターすればマイクロは難無く、歯科臨床のあらゆる局面で利用可能ということである。つまり、PDシステムを取り入れればマイクロスコープ歯科臨床の多くの局面で活用出来るのである。
マイクロスコープは20倍まで拡大可能だが,ガリレアンルーペはせいぜい8倍、マックス10倍であるから、やはりマイクロスコープの方が大きく拡大して見ることができる。しかも、マイクロは優れた光学レンズであるアポクロマートレンズを使用していれば、ガリレアンルーペより明るく、シャープな画像が見れる。拡大率が高いことは精度につながるので、やはりマイクロはルーペよりも優れている。
というわけで、マイクロスコープは、近い将来、是非診療室に備えなければならない必須のツールと認識した。
ジルコニアセラミック・レストレーションの長期予後(2)
昨日はジルコニアセラミック・レストレーションの7年間の良好な長期予後を報告した文献を紹介した。その5年生存率(5年間トラブルを起こさず存在している確率)はインプラントで98.3%、天然歯で97.3%という非常に良いものだった。今日は、同様の報告で、少し低い成功率の文献を紹介する。後者のものでは、ジルコニア・レストレーション(ジルコニアをベースとしてレイヤリングセラミックでカバーしたもの)の3-5年の破折率は6-15%であるのに対し、従来のセラモメタル・レストレーションのそれは4-10%であり、破折率が従来のセラモメタル・レストレーションよりも高いことを報告している(1)。
自分の臨床実感も後者のものに一致しており、いわゆるジルコニアボンドと呼ばれるレストレーションは、よくチップするように思う。レイヤリングセラミックの一部がジルコニアフレームから剥離するトラブルを何度も経験しており、今では自分の臨床の中からジルコニアボンドは消えている。後者の報告は文献レビューであり、複数の報告者のデータの総括であるから、歯科医やテクニシャンの臨床精度に差があることが想像される。多くのデータの中には必ずしも卓越した術者やテクニシャンによるものだけではないものも含まれているならば、後者のものこそ現実的な評価として受け止めていいのかもしれない。
さて、ジルコニア冠はレイヤリングセラミックとボンディングするとあまりよくないのだが、ジルコニアフルミリング冠ではどうだろう?ジルコニアは超硬く、単体で使用する分にはおそらく冠そのもののフラクチャーはないだろう。あるとしたら、対合や支台歯の破折、あるいは歯槽骨の吸収だが、自分の直観では、咬合調整を完璧に行っておけばそういったことは起こらないのではないかと思う。支台歯に加わる力を完璧にコントロールできれば、支台歯をコーピングするマテリアルの硬さは支台歯や歯周組織に伝達される力を著しく修飾するようなことはないと思うのだが。この点については、今後、ジルコニアフルミリングクラウンの長期予後報告を待ちたい。
参考文献:
ジルコニアセラミック・レストレーションの長期予後(1)
今のところ、ジルコニアは最も硬いセラミックだ。そのモース硬度は8から8.5とサファイヤ、ルビーに次いで硬く、ビッカース硬度は1,300もあり、エナメル質が400程度、保険で主に用いられる金銀パラジウム合金が285、保険外診療で用いられるプレシャスあるいはセミプレシャスメタルが210~300であるから、天然歯表面や歯科用金属よりもはるかに硬い。このように十分硬く、その強度を信頼できるものだから、従来のメタル・レストレーションからオールセラミック・レストレーションへの転換トレンドに乗り、最近では天然歯およびインプラントに用いても破折しないだろうとの考えから、ずいぶんそれらに乗せる修復物として使用されてきている。当院でも、多くの天然歯およびインプラント上部のクラウンやブリッジに使用している。
ところで、天然歯表面よりはるかに硬いものを天然歯やインプラントの上に乗せて咬ませてもいいのか?という疑問があり、ジルコニアの臨床応用開始当初から議論されている。天然歯よりもはるかに硬いものを天然歯に乗せた場合、対合歯を損傷したり、支台歯そのものが破折したり、支台歯の周囲歯槽骨を破壊したりしないか?という懸念からである。こういう場合は、いくら議論をしても結論は出ないわけで、こういう時こそ疫学調査がものをいう。
ジルコニアセラミックが臨床の場に登場してそれほど時間がたっていないので、10年の長期予後を報告した文献の入手は難しいが、それでも最近、7年間のジルコニアセラミック冠の臨床統計報告を見つけた(1)。その報告で用いられたジルコニアセラミックレストレーションの詳細は、ジルコニアフレームをべニア用陶材のレイヤリングでカバーしたものであるが、そのようなデザインのジルコニア冠のべニアセラミックの5年間のカプランマイヤー生存率(つまりべニア部分がチッピングしない確率)は、インプラント上で98.3%、天然歯上で97.3%、という優れたものである。そして、7年間の追跡調査の結果、ジルコニアクラウンは良好な結果を約束する修復法であると結論付けている。
この数値が正しければ、ジルコニアセラミック・レストレーションは信頼できるといえる。ただし、この統計に使用された症例はすべて20年以上の経験を有する一人のベテラン補綴歯科医であり、技工物も一人の経験豊富なエキスパートテクニシャンが手掛けたと書いている。つまり、技工と補綴治療のクオリティーが秀逸であれば、同一の歯科医とテクニシャンが作りだしたものに限定しているだけに、データは平均以上の良い数値が出る可能性があるのかもしれない。
参考文献:
歯科の3種の神器
歯科の3種の神器というのがある。1 歯科用CT 2 マイクロスコープ 3 セレックなどのCAD/CAM、のことだそうだ。その中で、今日は歯科用CTについて書きたい。
歯科用小照射野X線装置(CBCT)が開発されて15年以上が経った。自分は病院勤務医時代に医科用CTをずいぶん見てきたので、歯科用 CTの利点や欠点が良くわかる。
文献的なチェックを入れると、歯科用CTの利点としては、1) 解像度が高い、2)被ばく線量が少ない、3)撮影時間が短い、4)金属によるアーチファクトが少ない、5)軽量で設置面積が小さい、 6)導入費用や維持費や医科用CTに比較して安い、が挙げられ、その欠点としては、1)撮影範囲が狭い、2)軟組織の描出能が低い、3)CT値に医科用CTのような定量性がない、ということになる。
利点の1,2,3は撮影原理と関係しているが、旧来型医科用CTが横たわった被験者に対して、扇型のビームを頭から足先を貫く軸に対してらせん状にぐるぐると何回転もしながらゆっくり回転を繰り返して照射していくのに対して、歯科用CTは立位の被験者の頭の周りをコーン型(円錐形)のビームが1周するだけで撮影が完了する、という違いに起因する。歯科用コーンビームCTの体積素(ボクセル)は一辺0.1mm程度の立方体であるのに対して、旧来の一般的CTの体積素は0.4mm ×0.4mm ×0.4mm程度の大きさであり、解像度(空間分解能)は一般的に体積祖の大きさが小さいほど高いので、歯科用CTの方が解像度が高くなる。また医科用CTは広い面積のビームで、何回もぐるぐる回りながら広い範囲を照射するので、トータルの被ばく線量は医科用の方が多くなる。また、医科用CTはぐるぐる何周もするので、一周で完結する歯科用CTより撮影時間が長くなるのは当然だ。
ただ、歯科用CTの利点に関しては、最新の最高性能の医科用CTでは、歯科用コーンビームCTの撮影時間の半分以下とする報告もあるので、あくまで旧来型の医科用CTと比較した場合の話だ。
歯科用CTが圧倒的に有用と思えるのは、細かい部位を観察するときにその強みがいかんなく発揮される。たとえば、根尖病変の位置や形状は非常に明瞭に映し出される。根管の走行状態も一目瞭然に把握できる。また、歯周組織の残存状態、特に歯根周囲にどのような形態で骨が残っているか、あるいは骨が破壊されているかは的確に把握できる。骨が溶ける歯周病の実態をリアルにとらえるためには歯科用CTは非常に有用だ。根分岐部病変も三次元的に描出されるので、その存在を明確にとらえることが出来る。
要するに、顎骨骨折や腫瘍の進展状態を把握する場合のように、頭頸部全体の広い範囲の探索には医科用CTが適している。一方、数本の歯の歯槽骨や根管内の状況についてのみ観察したい場合は、狭い範囲の照射で事足りる歯科用CTの方が適している、ということになる。そして、デンタルやパノラマでは診断しづらい歯および歯周組織の微細な異常に対して歯科用CTは明確にその存在を提示してくれるので、これからの歯科診療室には必須のアイテムであることは否定できない。
参考文献:歯科用コービームCTと医科用CTとの違い-その2ー. 佐野 司, 西川慶一. 歯科学報, 109(1):73-75
咬み合わせと肩こり
以前に、「咬み合わせが顎関節症の原因となる明確なエビデンスはない」と書いたが、咬み合わせと肩こりとの関係、となると話は別だ。こちらは大いに関係がある。自分の臨床においても、早期接触が見られたため咬合調整を行ったところ、それまで続いていた肩こりや首の痛み、頭痛が翌日にはうそのように消失し、施術した次の受診日に、”一体あれは何だったんでしょう”、と患者さんからおっしゃっていただいた経験を何度もしている。それくらい、咬み合わせの不調和がもたらす筋緊張は若干の咬合調整により、短時間で症状がとれる。
それはなぜかというと、咬み締めとは下顎を閉じる筋肉が収縮して上顎歯列と下顎の歯列が、咬む面の凸部と凹部がうまくはまり込む形で、多くの接触面積でもって上下の歯列が安定して接触する状態に他ならない。この時の下顎のポジションのことを咬頭嵌合位と呼ぶが、この咬頭嵌合位に向けて、筋肉が楽に収縮して、下顎閉口路の最終位置として、下顎がそっとそこにはまり込めば問題はない。この状態の下顎の位置は、下顎の筋肉が決定することから、筋肉位と呼ばれることもある。ところが、下顎が楽に筋肉位をとりながら、そこが咬頭嵌合位でない場合、最終的な歯の咬む面の接触に至る以前に、特定の歯が他の歯より一瞬早く接触することがある。この時、下顎はこの早期接触を避けるように、筋肉収縮が導くところの本来楽に収まる位置ではなく、少しずれた位置で咬頭嵌合位を持つことになる。筋肉の楽な収縮が導く位置でない位置に咬頭嵌合位がつくられる場合、下顎は余分な運動を強いられるので、筋肉も余分な収縮を強いられ緊張してしまう。顎を閉じる筋肉に起こるこの緊張が、肩こりを引き起こすのだ。
顎を閉じるときに働く筋肉に生じた過剰な緊張は、”筋膜連鎖”により周囲の筋肉に緊張が連鎖する。首や肩、背中へ緊張は伝わり、場合によっては、腰や下肢までその緊張は連鎖する。頸部の筋肉の緊張は、”関連痛”のメカニズムにより、頭痛として認識される。これが、咬み合わせの不調和で肩こりや、首のこり、頭痛が起るメカニズムだ。この辺のところは、本HP内のDentistに詳しくアップしておくので、また読んで行って欲しい。
歯周治療と矯正治療
今日のテーマは歯列不正と歯周病の話だ。歯列不正は歯周病の増悪因子になり得る。歯列不正はプラークリテンションファクターと呼ばれるいくつかのプラークを歯列に停滞させる要因の一つだ。ついでに言及しておくと、その他のプラークリテンションファクターとして、歯石、歯肉歯槽粘膜部の形態異常、不適合修復・補綴物、歯の形態異常、食片圧入、口呼吸、口腔前庭の異常、歯頚部う蝕、歯周ポケット、などがあげられる。歯列不正の歯は、通常のブラッシングでは隣接面のプラークが取り残されるので、確かに歯周病が進行しやすい。これに対する最も根源的な対処法は歯列矯正だ。歯列を整えることでブラッシングの効果を高め、プラークの停滞を改善することは大いに有意義と考えられるので、最近では、歯周治療の一環としての矯正治療が、結構、行われるようになっている。
逆に歯周病が歯列不正を引き起こすこともある。例えば、「フレアーアウト」と呼ばれる歯周病が原因で起こる歯列不正がある。「フレアーアウト」とは歯が動揺をきたした結果、咬合力により前方に傾斜移動して「出っ歯」になり、かつ上顎の各前歯がばらけてすいてくる状態をいう。これは歯を支えてきた歯槽骨が歯周病で減少し、歯が移動した結果生じる。この状態を矯正治療で元の歯列に戻すことは可能だ。
歯列不正は歯周病の原因にもなるし、歯周病の結果にもなる、ということだ。ところで、歯周病の結果、移動してしまった歯を元の状態に戻すには矯正治療が必要だが、通常の矯正治療に比べて移動させやすいのではないかと考える。逆に言えば、力をかけ過ぎれば抜け落ちてしまうのかもしれないが、弱い力をかける分にはたぶん大丈夫な気がする。やったことがないが、今後の自分の臨床のレパートリーに加えたい気持ちは大いにある。これから、矯正治療、特に歯周病にフォーカスした矯正治療を勉強していこう。
喫煙と歯周病、およびインプラントとの関係
今日のテーマは喫煙についてだ。喫煙が健康に良くないことは、ほとんどの国民が、一応、常識として知っていることと思う。呼吸器疾患はもとより、動脈硬化や癌などの発症と強く関係することは、よく知られている。ところで、喫煙と歯周病やインプラントとの関係についてはどうだろう?実は、喫煙は歯周病のきわめて重要なリスクファクターであるし、インプラント治療の予後を悪くする決定的な因子であることをはたして、ほとんどの国民が知っているだろうか?
実は、私自身も口腔外科専門医であるにもかかわらず、かつてタバコが歯周病の進行を大きく加速させることを知らなかった。それを知ったのは、歯周病専門医の資格をめざして本気でペリオを勉強し始めてからだ。だから、喫煙が歯周病やインプラント治療の予後に多大な悪影響を及ぼすことを、多くの国民はまだ十分知らないのではないかと想像している。
さて、喫煙習慣は歯周病に決定的に悪影響を及ぼす。ニコチンは末梢循環を不良にするので、生体の修復に必要な血流が阻害され、破壊された組織の修復能が低下し、治癒が悪くなる。だから、あらゆる治癒が必要となる局面で不利に働くわけだ。GBRをしても思った通り骨が出来ない。インプラントを入れても、期待した時期になってもオッセオインテグレーションが起こらない。
このように、歯周治療やインプラント治療において、患者さんにとって非常に不都合なことが起るので、日本歯周病学会編 「歯周治療の指針2015」においては、『禁煙者の歯周治療には禁煙が必須であることを十分説明し、必要に応じて禁煙外来や他の医療機関と連携しながら患者の禁煙を支援する必要がある』と明記されている。また、日本口腔インプラント学会編 「口腔インプラント治療指針2012」においても同様に、『1)喫煙者は粘膜に慢性の炎症が存在し、粘膜創の治癒不全が起る。そのため非喫煙者と比較してインプラント治療の成功率は低いことが報告されている。 2)喫煙は歯周病を悪化させる。喫煙を継続すると残存歯の歯周病が悪化し、インプラント周囲炎やインプラント周囲骨の吸収を起こす可能性が高くなる。 3)喫煙経験年数と1日の喫煙量、タバコの種類、喫煙にあわせ飲酒習慣の有無を調査する。インプラント治療に先立って禁煙指導をする』と、やはり禁煙指導が必須であることが明記されている。
歯周治療やインプラント治療を受けて、本気で口腔機能を清潔・快適な状態に向けて改善したいなら、患者さんは頑張って禁煙をするべし、ということだ。
下顎のインプラント傾斜埋入は、マージナルボーンロスを招く
前回、インプラントの傾斜埋入は内部ストレスを高める、と書いた。今回は、インプラントの傾斜埋入は、インプラント周囲のマージナルボーンロスも引き起こすことを書きたい。下顎の歯槽堤増大術をインプラント埋入に先立って施行した部位にインプラントを傾斜埋入した場合、特に舌側、あるいは遠心側に傾斜させて埋入した場合、マージナルボーンロスが顕著に出現するとの報告がある(1)。
たしかに、傾斜埋入は、通常のインプラント埋入が困難な場合であってもインプラントの適応を可能にするので、実際の臨床の場でその適応を試みる臨床家の心理は十分理解できる。この世の中にはパーフェクトなものなどないという観点に立てば、多少のネガティブ要因と、インプラント適応がもたらすポジティブな効果とを比較して、傾斜埋入もよし、とする価値判断もあっただろう。しかし、インプラント周囲炎の問題がこれだけ取沙汰されている現在、マージナルボーンロスを惹き起こすことが明らかとなった著しくインプラントを傾斜させる埋入法は、現在ではもはや容認されにくいだろう。
したがって、All on four は当院では行っていない。
参考文献:
傾斜埋入されたインプラントは、傾斜角に応じて内部ストレスが増加する
自分はインプラントの傾斜埋入は好まない。自然の歯を代償するべく登場するからには、自然の歯と同じく、”真っ直ぐ”に生えるのが最も生理的状態であろうと信じるからだ。不自然なものを体内に入れてはいけない。これは自分の感性に基づく判断だ。
傾斜埋入は、時に臨床的にインプラントの適応を容易にする。垂直埋入では重要な神経、血管や上顎洞などに到達する場合、傾斜させることでインプラントが顎骨内に無難に収まってくれるからだ。だから、一部の臨床家は傾斜埋入を戦略的なインプラント治療として、積極的に取り入れてきた経緯がある。しかし、自分はそれをしなかった。一番の理由は美しくないからだ。傾斜埋入されたインプラントのレントゲン写真をみると不自然で、醜悪と思う。だから、取り入れなかった。この感性は、自然界が正しいものに導くために用意したナビのようなものだと思っていて、生理的に受け入れられるものに従ってやっていれば大間違いはないだろうと思ってきた。
インプラントの傾斜埋入に対して理詰めで批判的な意見を言うと、傾斜の度合いに応じてインプラント内部のストレスが増加することがわかっている(1)。人間の感性に引っかかるものには何かしらの欠点があるということだろう。
参考文献: