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院長ブログ

術後管理

 術後管理は、手術の成果をあげるためにとても重要だ。手術をしただけでは、目標に向けてスタートを切っただけで、目標地点に正しく到達するためには適切なナビが必要だ。例えば、抜歯後、創を上手く治癒させるには、術直後に抜歯窩(ばっしか)が血餅(けっぺい)で充満されることがとても重要。なぜなら、創が正常な治癒機転に乗るために必要なすべての因子は、生体が本来、体内に準備しているのだが、その治癒達成因子はすべて血餅内にセットで準備されているからである。本来、創を治癒させる主体は術者ではなく、生体自体が元から持っている治癒能力なので、手術は目指す環境を作り出す為のお膳立てのようなものだ。

 だから、生体が治癒しようとする機転を損ねるような環境は、是正しないといけない。たとえば、抜歯当日、うがいをし過ぎると抜歯窩治癒不全に陥る。また、インプラント手術後、硬い食物を摂取するとインプラントは動揺をきたし、下手をすると脱落する。だから、当院ではインプラント手術後、週二回ペースで経過を見させていただく。そうすることで、治癒機転を阻害する因子がありそうな場合は、適宜、改善できる。手術後、次回は2週間後に来てください、というのはよくない。手術直後、インプラントの存在を気にして、無意識に舌で触ってチェックしたくなるだろうが、経過観察を密にすることで微妙な治癒の異常をキャッチすることが出来、絶対にそんなことはしないでほしいと注意することが可能になる。

 術後管理は、成果を上げるためにとても重要と認識している。

咬み合わせと姿勢

 咬み合わせと姿勢は従来から関係があると考えられていたものの、それを証明する研究手段の問題もあって、咬み合わせは姿勢に影響を与えるか、否かについては賛否両論あった。しかし、最近になって、咬み合わせは姿勢と密接に関係がある、とする報告が多く出て来ている。

 咬み合わせが姿勢に影響を与えるか、否かの研究結果は、その研究手段や研究デザインが関係する。姿勢を評価するパラメーターとして、何を選択するかということも重要だ。たとえば、重心動揺計を用いたデータはデリケートで、誤差が入る可能性がある。また、臨床的にインパクトのある研究デザインは、人を対象として実験群は咬み合わせを操作して片側でしかし咬めないようにしておき、それ以外の条件を対照群とそろえて一か月間なり一定期間生活させ、脊椎の湾曲を計測し、片側での咬合を強いられた群に脊椎側弯の傾向が有意に認められることを立証する,というような研究デザインが考え得るが、現実にはそのような研究は倫理的に実現しない。したがって、なかなか、咬み合わせが姿勢に影響を与えることを決定的に証明する報告は出にくいのだろう。

 しかしながら、姿勢を評価する方法を別の切り口で検討すると、咬み合わせが姿勢に影響することが明らかになってくる。「咬み合わせがバランスを失うと姿勢が変化する」、ということをもっと明瞭に表現すれば、「下あごの骨に左右不均等な咬み力が加わると、頸椎が歪み、その頸椎の歪みは脊椎全体を歪ませる」という表現になるだろう。脊椎の歪みをパラメーターとすれば、咬み合わせがパラメーターに有意な変化を起こさせることを捉えやすい。そして、それは事実である。このことは、有限要素法解析や動物実験で証明され得るし、そのような実験結果が実際、報告されている。また、人において一時的に咬み合わせを変化させると、脊椎のアライメントが明らかに変化する、すなわち姿勢が変化することが報告されている(1)。前述の報告では、脊椎の歪みは超音波の使用により測定されており、従来の計測法より精度が向上してきていることも結果の信憑性につながっている。

 最後になるが、咬み合わせと姿勢に関した私のリポート、”咬み合わせと姿勢”を本HP内の”デンティスト”で紹介しているので、是非、読んで行って欲しい。

参考文献:

 

デジタル時代の効用

 事情があって,二階のオフィス機能を一階に移すことになった.よって,オフィス機能を営むのに必要最小限度のものを残して断捨離することにした.真っ先に廃棄する対象は,古くなった本や雑誌だ.自分は学術雑誌は古いものでも取っておく方だったが,この機会にすべて廃棄することにした.なぜなら,現在では,過去のバックナンバーはネット検索で読めるからだ.各学会は,その学会誌の過去のバックナンバーをデジタルで記録保存しており,会員はIDやパスワードを入力すれば(IDやパスワードが不要なことも多い),オンラインで自由に過去の学術雑誌を閲覧することができる.だから,紙の雑誌はもはや保存する必要がないわけだ.

 これは,スペースが節約でき,大いに助かる.ネットの普及はよい面と悪い面があり,サイバー攻撃やネット犯罪などの嫌な面もあるが,オンラインで膨大な情報を瞬時に検索して手に入れることができるのは良い面だ.よかれ,あしかれ,今はこういう時代なのだ.時代はどんどん変わっていて,そして,この状況はとてもエキサイティングだ.まだまだ変化をつづけるこの時代を面白がり,どんな世界がやって来るのか楽しみに,時代について行きたい.

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チッピング

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 歯冠の一部が欠けることをチッピングと呼ぶが,なかなか嫌なものだ.上の写真は,上顎犬歯のレジン前装冠の破折である.金属にレジンを貼り付けた二層構造をしているので,犬歯誘導という重要な役割を担うつけで,犬歯の場合は切端部にかかる側方力が,唇面に貼っているレジンを剥離させることがある.この場合のリペアは比較的容易だ.金属に接着するレジンを,再度,唇面に貼り付け,犬歯誘導時に,下顎の犬歯がレジン面を滑走しないように咬合調整することはそれほど困難なことではない.

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 一方,咬合面となると話は別だ.たとえ咬合面にレジンを貼ったとしても,強い咬合圧で間もなくすり減ってしまい,もとの木阿弥になる.だから,咬合面をレジンで被覆しているクラウンの,咬合面のチッピングは厄介なのだ.

 かといって,絶対に割れない超硬い素材で歯冠を被覆した場合,歯冠はチッピングしなくても,歯根破折や辺縁歯槽骨吸収などを起こしかねない.歯根が折れたり,歯根周囲の骨が溶けるくらいならチッピングした方がまだマシ,という考え方もある.割れた方がいいのか?割れない方がいいのか?チッピングの問題は臨床家の悩みの種といえる.

 

インプラント周囲炎(2)

 インプラント周囲炎の治療と予防は,今日の歯科医学が真剣に取り組まなければならない課題だ.必ずしも,全世界の学会で共通の統一的なインプラント周囲炎の診断基準や治療法が確立されているわけではないが,少なくとも現段階である程度のコンセンサスが得られているものがあれば,現時点でのベストの判断と対処に生かしたい.

 先ず,インプラント周囲炎の診断基準だが,プロービングとエックス線診断が重視されている.0.25Nの挿入圧で測定されるポケット値とBOP(Bleeding on Probing:プロービング時の歯肉出血)や排膿の有無は重要だ.プロービング時に歯肉出血を伴うことは,活発な歯周病原菌の存在を示すことは天然歯の歯周病と同様である.

 診断基準として,ポケットが4mm以上(BOPや排膿を伴う)で,ボーンロスがインプラント長の25%未満を初期型,ポケットが6mm以上(BOPや排膿を伴う)でボーンロスがインプラント長の25%以上で50%未満を中期型,ポケットが8mm以上(BOPや排膿を伴う)で,ボーンロスがインプラント長の50%を超えるものを進行型としている.

 

 

抜歯即時インプラント埋入における埋入深度について

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抜歯した直後に,その抜歯窩にインプラントを埋入することがある.抜歯即時埋入と呼ばれる術式だ.その際,インプラントを抜歯窩のどのポジションに埋めるかは重要な問題だ.三次元的に,頬舌的,近遠心的,そして埋入深度の三つの要素が規定されればインプラントの位置は決定される.今日は,埋入深度について書く.

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インプラントの埋入深度は,深すぎても,浅すぎてもいけない.先ず深さの目安となる基準点だが,上顎前歯にフラップレスで埋入する場合,自分は抜歯窩の頬側歯肉縁中央の基準点から3.5mmの深さにインプラントのプラットフォームが位置するように埋入してる.その理由は,生物学的幅径(歯肉溝+上皮付着+結合織付着)を約3mmと見積ると,歯肉縁から3mm下方が歯槽骨縁に一致するはずであるが,術後の骨吸収を見越して,0.5mmさらに深く見積もるので,歯肉縁から3.5mm程度が良いのだろうと考えている..

 

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ところで,抜歯窩に即時にインプラントを埋入する場合には,インプラントと骨壁とのギャップを骨補填材で充填するのだが,この場合,歯槽骨辺縁の高さは,1年後には埋入時の高さより0.15mm根尖側に向かって骨吸収により下がるという報告がある.埋入後,ある程度の骨吸収が起こることを想定して埋入ポジションを決定することが重要になって来るわけだ.

 

修復物の試適の重要性

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修復物の試適を完成前に行っておくことは極めて重要だ.この段階で完成品と同一の形態をした仮の構造物を支台歯に乗せてチェックし,その適合度や咬み合わせ,清掃性や発音,舌触りの良しあし,口唇との調和がほぼ満足できるものであれば,完成時にはほぼ,それと同等の満足すべきものが入ることが保証されるからだ.

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例えば,このケースではインプラントに接続するアバットメントは,インプラントポジションがやや深めの関係でカスタムメイドだ.それを試適して,レントゲンで確認しておけば,適合の良いアバットメントであることが保証されるので,インプラントの最終上部冠を安心して製作することができる

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最終修復物は,ほとんどの場合,セラミックブロックからCAD/CAMで製作されるので,試適の際に支台歯に乗せるものは最終修復物の製作途中のものではない.試適の目的のためだけに製作されたレジンだ.当然,最終修復物と同様の形態が具備されている.

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材質はレジンだが,形態は最終修復物と同様なので,仕上がりを予見することが可能である.もし,問題があればそれを改善してから最終修復に入るようなシステムを構築しておけば,満足のいく仕上がりになる確率は高い.だから,完成前に試適のステップを入れることは極めて重要といえる.こういうところは,保険診療の制約に縛られなくてすむ自費診療の優位性のひとつだ.

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インプラントの表面性状と骨との結合の早さ

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 インプラントが骨とどのように結合するかについて書く.以前,Brånemarkらは,インプラントが骨と結合する状態をオッセオインテグレーションと呼んで,特殊な結合様式が存在するかのような認識をしていた.しかし,1994年,Albrektsonらは,インプラントと周囲の骨との結合は「機械的な篏合(かんごう)」に過ぎないことを報告した.つまり,インプラントと骨との結合は特殊な化学的結合ではなく,インプラント表面に周囲骨が機械的に食い込んでいるだけなのだ.したがって,多くの接触面積をもって,しっかりと骨が食いつきやすいように,インプラント表面性状に各メーカーは工夫を凝らしてる.

 たとえば,アストラテックインプラントは,二酸化チタンによるブラスティングでインプラント表面に5~20μmのピットサイズの均一なくぼみを持つ粗造面を作り出し,「Tioblast」という商標で発売している.最近では,この「Tioblast」処理をさらにフッ化処理することにより,さらに小さなグリッドを形成し,ナノサーフェイス化することに成功しており,2005年より「Osseospeed」という商標で発売している.フッ化処理は表面へのカルシウム沈着を起こさせ易くすることがわかっており,インプラント表面での骨形成が促進されることが期待できる.

 以上は,アストラテックインプラントの例であるが,その他のメーカーも同様にその表面性状に独自の工夫を凝らし,インプラント表面での骨形成促進スピードを競っている. 例えば,ストローマン社のインプラントは,チタン表面をラージグリットのサンドブラスト処理した「SLAサーフェイス」を持ち,短期間で骨との結合が起こることを誇っている.最近では,さらに「SLActive」へと進化し,埋入後3~4週間での荷重が可能であることがメーカーにより謳われている.自分の臨床実感でも,確かに「SLActive」は早い.

 

 

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 インプラントと骨との結合の強さの度合いは,「インプラント定数」を測定することで判断できる.プローブから磁気パルスを「スマートペグ」に発信し、共振周波数を測定することでISQ値(インプラント定数)を算出・表示する「オステルメンター」という器械を用いることで測定できる.

 右写真は,インプラントにペグを接続した状態である.このペグに向けて磁気パルスを発信し,共振周波数を測定する.このケースはアストラテックインプラントであるが,埋入後2カ月丁度で,「80」という数字を打ち出していた.一般に70以上で荷重をかけてよいことになっているので.この数字は非常に良い.「Osseospeed」といい,「SLActive」といい,最近のインプラント表面性状の進化には目を見張るものがある.一昔前は埋入後の標準的免荷期間が3~6カ月であったことを考えると,インプラント表面性状は飛躍的進化を遂げている.

 

 

インプラント周囲炎

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今日は,地元高松市で開催された日本口腔インプラント学会中国四国支部学術大会でインプラント周囲炎に関する発表をさせてもらったので,インプラント周囲炎について書きたい.  インプラント周囲炎を起こしているインプラント周囲ポケットから検出される細菌は,概ね,天然歯の歯周病を発症している歯周病原菌と変わりない. Pg(Porphyromonas gingivalis) ,Tf ( Tannerella forsythia)  ,Td (Treponema denticola) を中心とした細菌叢が検出されている.そして,インプラント周囲炎を起こしているインプラント周囲ポケットからはBOP(歯肉出血 Bleeding on Probing)が認められることも天然歯同様だ.つまり,インプラント周囲炎を引き起こす細菌は,隣在する天然歯に存在する歯周病原菌が感染しているのだ.だから,インプラント周囲炎の予防のためには,インプラント治療に先立って,天然歯の歯周治療を完了させておくことが極めて重要ということだ.

 

歯周病の最新病因論(2)

 前に歯周病の主たる病原菌は,Porphyromonas.gingivalis, Tannerella forsythia,  Treponema denticola に絞られて来た,と書いた.今日はその中でも主犯格の P.gingivalisについて書く.

  P.gingivalisは誰の口の中にもいる常在菌だ.だから,歯周病を発症していない人の口の中にも,不顕性感染として存在している.そして,このものは普段,おとなしい振りをしているが,環境が整えば凶悪性を発揮してくる,その環境とは出血だ.P.gingivalisは,栄養素としてヘム鉄(血液の中の赤血球に含まれる)の摂取が欠かせず,これがないと活発な増殖できない.よって,出血のない歯周ポケットでは,P.gingivalisはおとなしくしているので,歯周病は発症しない.しかし,ポケットの中に出血が起ると,がぜん元気に増殖を開始し,凶悪性を発揮し出すのだ.

 歯周ポケットの内縁上皮はプラークの沈着や宿主の抵抗力の低下によって ,P.gingivalis以外の細菌が炎症を起こす.その結果,ポケット内面の粘膜面に潰瘍が生じ,出血が起る.そして,最悪の歯周病菌であるP.gingivalisが眠りからさめ,暴れまくって歯周組織を破壊する,というわけだ.

 つまるところ,歯周病の発症のトリガー(きっかけ)は,出血ということになる,歯周基本治療として行われているスケーリングやルートプレーニングの目的は,この出血の阻止にあるのだ.機械的な歯面清掃により,バイオフィルムは大きく減少し,出血が治まる.そして歯周病が発症しない状態に戻る.

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