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院長ブログ

PMTCってなんだ?

 これまでPMTCとは、歯科衛生士が担当するものと思い込んでいた。PMTCとは、Professional Mechanical Tooth Cleaning の略号で、直訳すると専門的機械的歯面清掃だ。この用語は予防歯科の世界的権威であるスゥエーデンのAxelsson  P.教授により初めて用いられた。彼のオリジナルな見解では、PMTCとは、「専門教育を受けた予防歯科看護師、歯科衛生士、歯科医師が選択的にプラーク(歯肉縁上のみならず歯肉縁下1~3mmまで)を、機械的清掃用具とフッ化物配合研磨剤を用いて、すべての歯面から取り除くことであり、いわゆる”予防処置”(ラバーカップと予防ペーストを用いた研磨.おもに頬側、舌側、咬合面などのリスクのない面に対して行われる)と、専門家による機械的歯面清掃(PMTC)を混同してはならない」とされている。しかし、現在の我が国におけるPMTCの定義は、「口腔ケアにともなうさまざまな機材を用いた専門家による歯面清掃すべての総称をPMTCという」が一般的である(1)。

  ここで着目したいのは、Axelsson教授のオリジナルの見解では、PMTCを担当するは口腔の専門家であり、歯科衛生士に限っていないことである。歯科衛生士以外に、歯科看護師および歯科医師が担当してよいことになっている。要するに専門性の高い高度の歯面清掃は、専門職によって行われる必要があるということだ。

 ちなみに、スウェ―デンの歯科医療制度は我が国とは違い、歯科医療を補助するものとして、歯科衛生士、歯科技工士、歯科看護師が存在する。前二者は我が国と同じだが、歯科看護師という職種が存在する。世界の歯科医療制度を紹介した 『日本と世界の歯科医療』 によれば、スゥエーデンでは歯科診療補助者としては歯科衛生士(2,900 名)、歯科技工士(1,348 名)、歯科看護士(約 14,000 名)の職種がある。歯科治療において補助者が働くシステムはスウェーデンでは非常に発達しており、オーラルヘルスケアの多くを歯科診療補助者が行っている。日本と異なり、歯科衛生士は独立して勤務、開業が可能であり、その職務にはう蝕や歯周病の診断等が含まれ、充てん処置や局所麻酔を行うことが認められている。歯科衛生士のうち 600名が民間歯科診療所に雇用さ れ、2,100名が公共の歯科診療施設に勤務し、200名が自ら開業している。歯科衛生士は自らの職務に法的責任を持ち、患者への費用請求が可能である。この診療価格設定費用は、歯科医師のものとは異なっている(2)。

 調べてみると、スゥエーデンにおいてもやはり口腔ケアは歯科衛生士や歯科看護師が主になって担当しているようだ。歯科医師がなぜ行わないかというと、スウェ―デンでは歯科医師の数が少ないことが直接関係しているだろう。わが国でも、歯科医師は根管治療や義歯治療などの一般治療に忙殺され、直接PMTCを行う時間がないことが原因といえる。

 今日、あえて言いたかったことは、PMTCは単なる「おそうじ」ではなく、齲蝕や歯周病の病因である口腔細菌を取り除く、高度の専門性に裏打ちされた医療行為であることを再認識する必要がある、ということだ。そして、齲蝕や歯周病を予防することが国民の健康長寿に直結することが明らかとなった今、歯科医師はそれを歯科衛生士に丸投げするのでなく、PMTCの具体的なテクニックやその効果について自ら研究する義務があると思うのである。そして、たとえ自ら行うことはなくとも、行うことが出来、歯科衛生士に技術指導ができるレベルでなければならないと、自戒を込めて思う。

 

参考文献:

1 内山 茂、波多野映子著. 歯界展望MOOK PMTC2.  医歯薬出版.東京.2003.

2 医療法人社団 星陵会 平 健人. 『日本と世界の歯科医療』 ~国際比較から見た日本の歯科医療の姿~ .

     千代田ファーストビル歯科HP.(www.chiyoda1st.com/iryo.html)

インプラント治療後の経過観察では、何に着目するのか?そして、何をするべきか?

 インプラント治療が完了してからあと、どのような点に着目する必要があるのか?というテーマで書こう。

 インプラントが埋入されている口腔のメインテナンスにおいて、着目する点はインプラント周囲病変が起っていないか、どうかのチェックだ。インプラント周囲組織はバリアーとしては脆弱なので、インプラント周囲の感染リスクは、天然歯以上に高い。

 具体的なチェック項目として、1)インプラント周囲のプロービングデプス 2)プロービング時の出血 3)排膿の有無 4)インプラントの動揺度 5)デンタルX線写真撮影により骨吸収の確認 6)プラーク付着の有無 7)口腔内写真撮影による観察、が挙げられるだろう。

 インプラント周囲ポケットが深まっており、ポケットからの出血と排膿が伴えば、インプラント周囲骨の吸収を起こしている可能性は極めて高い。

 メインテナンスにおける診査でインプラント周囲炎が認められた場合、直ちにその救済をしなければならない。もし、認められなければ、やることはセルフコントロールの指導、つまりTBIと、プロフェッショナルコントロールのPMTCだ。

 以前は、PMTCはDH(歯科衛生士)に任せていたが、メインテナンスにおけるインプラント周囲炎の早期発見が極めて重要との観点から、最近では、個人的には、PMTCの内容に関心が高まってきているところだ。

 参考文献:三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

インプラント治療にあたる際の心構え

 「インプラント周囲歯肉のバリアー機能は天然歯に劣る」のであるが、それをもってインプラント治療を否定するのは間違いだ。インプラントの咀嚼を支える能力の圧倒的高さを考えると、やはりインプラントは現代の歯科医療が到達した一つの大きな金字塔と思う。どのような医療にも利点と欠点があり、その両者をよく見極めて、最終的には患者さんがチョイスするべき、と思う。少なくとも、もしも自分が何かの原因で(というか、歯周病で歯を失うことは考えにくいので、歯肉縁下カリエスだろう。これは補綴物のマージンが歯肉縁レベル、あるいはそれ以下に設定された場合、起こりうる)、歯を失った場合、間違いなくインプラントをチョイスする。口腔清掃がきちんと行われている患者に、正当な術式で、適切な骨量が確保されており、かつ周囲に付着歯肉が2ミリ以上確保された部位に、信用出来る正規一流メーカーのインプラントが埋入された場合、メインテナンスが適切に行われてさえいれば、長期予後は間違いなくよいと断言できるからだ。部分義歯や天然歯を切削しなければならないブリッジに比較し、圧倒的な優位性がインプラントにはある。

 インプラント周囲炎のリスクファクターには大きく、1)患者の要因 2)局所的要因 3)医原的要因 があるといわれている。「患者の要因」とは、低い口腔衛生状態、隣在歯の歯周病の存在、メインテナンスの欠如、喫煙や糖尿病などの宿主の抵抗力が関連する。「局所的要因」とは、インプラント周囲骨量の不足、周囲角化歯肉の不足、インプラント体の性能などが関連し、「医原的要因」とは、不適切な外科手技、インプラントポジション、補綴デザイン、補綴物の適合不良、装着時の残存セメントなどが関連する。

 インプラント治療にあたる歯科医師は、3)の医原的要因で残念な治療結果が出ないよう、正しい倫理観に基づいて、自己のインプラントに関する知識・技能を常に高める努力を継続する必要があるだろう。万一、当初目指した結果がついてこなかった場合は、リカバリ―のための最大限の努力を払うべきだ。ここが臨床家としての質が問われる正念場だろう。これはとても重要なことで、絶対失敗しないドクターなど、テレビドラマの中にしか存在しない。そして、全例、最後には当初目指した結果を出すのが信頼できる誠実なドクター像と思う。また、1)の患者の要因は、知らされていなければ患者は正しい判断を出来ないわけだから、治療前の面談でしっかりとインプラント治療を受ける際に、患者側が満たしていなければならない条件を知らされなければならないだろう。2)の局所的要因については、歯科医師の力量にかかっているので、骨量や角化歯肉を予め増やすことが出来るのならインプラントをすればよいし、その技術がないのならしないほうが良いだろう。

 とにかく、患者さんにインプラント治療を受ける前に、その治療を受けるのにふさわしい状態になっていただくことがとても重要だ。それには、一にも、二にも、治療前にしっかりと面談に時間をかけ、インプラントのリスクやメインテナンスの重要性などを、しっかり理解していただくことだ。患者利益のために、この高度なインプラント治療を行うこと。このことは、インプラント治療にあたる歯科医師の心構えとして極めて重要だ。

参考文献:

三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

歯周組織とインプラント周囲組織との違い(3)

 今日は元旦だが、ブログの内容はいつも通りだ。インプラント周囲組織と天然歯歯周組織との違いを理解することで、インプラント独特の管理上の注意点をしっかり認識するところに至りたい。

 先ず、復習だが、天然歯周りの歯肉は、辺縁から歯槽頂まで歯とどのように接触しているかで、ざっくりと、1)歯肉溝上皮 2)付着上皮 3)上皮下結合組織 の3つのゾーンに区別される。挿入図を見てもらえばわかるが、歯肉溝上皮はポケットの内縁上皮だから全く歯と接触していない(A)。付着上皮は、ヘミデスモゾームという組織学的に確認できる接着機構を介してエナメル質と接着している。この接着はあまり強固ではない。一応、くっついてる程度のしょぼい接着であり、結合と呼ぶほどのものではない(B)。しっかりと結合しているのは、Cの上皮下結合織だ。この部分は歯肉内を横断するように歯肉内に存在する結合組織線維がセメント質表面に水平的に入り込んでいるのと同時に、歯槽骨骨膜からも結合組織線維がセメント質まで垂直的に入り込んでおり、両者がからみあうようにしっかりと結合している(C)。こういったふうに、BとCの歯肉が(特にCが)歯としっかりと結合してくれているおかげで、歯と粘膜の微細な隙間から細菌や異物が体内に侵入しないようになってる。

 

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  文献(2)より引用.

 さて、インプラントの周囲歯肉はどうなっているのか?インプラント周囲歯肉も、基本的には天然歯同様、「インプラント周囲溝上皮」「インプラント付着上皮」「インプラント周囲結合組織」の3つのゾーンに区別できる。このうちインプラント周囲溝上皮は、インプラントと接触していないので何のバリアー機能も果たさないのは天然歯同様だ。バリアーの役割が期待できるのは、「インプラント付着上皮」「インプラント周囲結合組織」だが、インプラント付着上皮にはチタン表面と接着タンパク(ヘミデスモゾーム)を介した接着が見られるものの、天然歯のそれより少ないことがわかっている。歯肉が接着タンパクを介してチタン表面とくっついてくれていたら、シーリングが期待できるのだが、インプラントではあまり期待できないということだ。また、天然歯では圧倒的に強固な結合織の結合がみられるCゾーンだが、インプラントでは結合織繊維は金属の中に入っていかない。つまり、天然歯では認められる歯~歯肉線維、歯~骨膜繊維に相当する結合織付着がないのだ。これは、インプラントの周囲歯肉のバリアー機能は、天然歯のそれよりも劣っていることを示す。このことは、インプラント周囲炎の骨吸収形態が、決まってきれいにクレーター状に認められることからも、インプラント周囲歯肉の結合織のバリアー機能が低いことがうなずける。

 したがって、インプラント治療は、補綴物が入った後の維持管理からが本番といえるだろう。インプラントを行う歯科医師は、この点を再認識しなければならない。

参考文献:

(1 )三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

(2)橋本 貞充.「歯周組織の構造と防御機構を再考する」マクロとミクロの視点からみる歯周組織の構造と機能.

      Osaka Academy of Oral Impantology. Vol.29.2-12.2015.

 

 

 

歯周組織とインプラント周囲組織との違い(2)

 歯周組織とインプラント周囲組織との構造的違いが、歯周病菌に対するバリアーとしての機能的な差につながると書いたが、今日は具体的に記述する。

インプラントと周囲粘膜は、「インプラント周囲上皮」と「インプラント周囲結合織」に分かれるのだが、天然歯の「歯肉上皮」と「上皮下結合織」に相当する。

 まず、天然歯の「歯肉上皮」は、接着タンパクを介して歯と接着しているか、いないかで接着している「付着上皮」と接着していない「歯肉溝上皮」に分けられるのだが、「インプラント周囲上皮」も、インプラントと接着している「インプラント付着上皮」と「インプラント周囲溝上皮」に分けられる。前者が粘膜の根尖側の層で、後者が粘膜の入り口側の層だ。

 ところで、天然歯の場合、健常な「歯肉上皮」には、1 セラミドとよばれる一種の脂質による生理学的な透過性関門 2 活発な細胞増殖による細胞交代(ターンオーバー) 3 接着タンパクによるシーリング(密封) 4 歯肉溝浸出液による滅菌・清掃の防御機能が備わっている。インプラント周囲上皮では、これらの防御機能が、果たして天然歯同様、備わっているのだろうか?

 まず、セラミドによる生理学的透過性関門は、インプラント周囲上皮の外側(口腔側)には存在するが、内側(インプラント側)は非角化上皮からなるので存在しない。つまり、防御機能は存在しない。ちなみに、皮膚と同様口腔粘膜には,生理学的透過性関門という防御機構が備わっているため,外部からの水,細菌および毒素は生体内に侵入できないし,また内部の体液も外部に漏出することはない。口に含んだ水が粘膜内に侵入しないのは口腔粘膜上皮の細胞間隙にセラミドが存在し,透過性関門として働いているためと考えられる。

 また、インプラント周囲上皮の防御能を知るために上皮細胞のターンオーバーの早さを調べる方法があるが、インプラント周囲上皮のターンオーバーは、天然歯の上皮細胞のそれの約3倍遅いことが知られている。これは、インプラント周囲上皮の防御機能が天然歯周囲上皮のそれよりも劣っていることを示している。臨床的には、インプラント患者のプラークコントロールは、天然歯だけの患者よりもより厳密におこなう必要があることを示唆している。

 

参考文献:三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

歯周組織とインプラント周囲組織との違い(1)

 天然歯の歯周炎の管理は容易ではないが、インプラント周囲炎の管理はもっと容易ではない、という実感を持っている。両者とも歯周病菌の感染によって起こるので、歯周病菌の数が臨床症状を引き起こさないレベルにまでその数が減少していれば、歯周炎もインプラント周囲炎も起こらない。つまり、口腔清掃がパーフェクトであれば、歯周炎もインプラント周囲炎も絶対に起こらないのだ。しかし、現実には歯周炎は起こるし、インプラント周囲炎も起こる。それは、口腔清掃をパーフェクトに行うことなど、普通は出来ないからだ。いくら清掃しても、少々プラークは残るものだ。それでも臨床的に歯周炎にならないのは、少々の歯周病菌が歯周ポケットに残っていても、生体には歯周病菌に対する免疫力があるからなのだ。ところが、現実には、特に全身状態が低下していなくても歯周炎やインプラント周囲炎が発症する。同じ口腔でも、同様に清掃していたとしても、特定の歯やインプラントのみに歯周炎やインプラント周囲炎が発症する。これは、局所の問題なのだ。

 もしも、特定の歯周ポケットやインプラント周囲ポケットのみにプラークが多量に付着していればその部位が歯周炎やインプラント周囲炎になる。しかし、プラークの残存がどの部位も一定レベルであれば、歯周炎やインプラント周囲炎になる部位には、局所の要因が存在する。

 ところで、周囲の歯周病細菌数や免疫力が一定と仮定した場合、天然歯とインプラントでは、どちらが周囲に炎症を起こしやすいのだろうか?この問題を考えるには、天然歯の歯周組織とインプラント周囲組織との違いを理解するところから始めなければならない。

 「歯周組織とインプラント周囲組織とはどこが違うのか?」を考えるとき、最も大きな違いはインプラントには「歯根膜がない」ことだ。歯根膜が存在しないということは、天然歯でみられる「セメント質ー歯根膜ー歯槽骨」という歯の結合様式がインプラントでは存在しないということだ。さらに、歯根膜に存在する神経や血管も存在しない。結局、インプラント体が生体内で接触している組織は、1 上皮組織 2 上皮下結合織 3 骨組織 ということになる。この歯周組織とインプラント周囲組織との構造の違いが、両者の細菌に対するバリアーとしての機能的な差を生み出している。

参考文献:三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

 

象牙質知覚過敏症(5)~なぜセラミックインレーやクラウンを入れるとしみるのか?~

 セラミックインレーやクラウンを入れた後、なぜかしみる症状が出現した経験は多くの歯科医師が持っているだろう。今日はこの問題についてだ。

 まず、健全象牙質を削ると「しみる」症状が出現する原因についてだが、以前に書いたように、齲蝕や咬耗を伴わない健全象牙質では、その内部の象牙細管は組織液で満たされている。この細管内の液体が、歯の表面に加わる刺激によって移動するので、細管内の知覚神経終末を刺激する結果、痛みが発生する。ちなみに、象牙細管内を液体が流れる速さは、秒速2~4mm程度であり、生活歯髄の歯髄内圧は15~30mmHgと報告されている。そして、歯髄内圧と外圧との差によって、象牙質壁1平方mmあたり5万~7万本存在する象牙細管では、細管圧の変動により、少なくとも一日100回は開口した細管が空になる可能性があるといわれている。

 ところで、齲蝕や咬耗を伴う歯では、リン酸カルシウム系の結晶物が齲蝕の下方に存在しているので(透明層と呼ばれる)、齲蝕を削っても象牙細管は開口しない。つまり、結晶物で細管が封鎖されているのだ。しかし、健全象牙質を削ると、象牙細管はもろに露出する。セラミックインレーやクラウンは必ずしも齲蝕の存在する箇所以外の歯質を必然的に削るのだが、これにより、削られた健全歯質の表面に象牙細管が露出する。したがって、この露出した象牙細管を確実に封鎖できるか、出来ないかで、セラミックインレーやクラウンを装着したあとに不快症状が出現するか、しないかが決定する。セラミックスの修復物の装着は、接着性レジンセメントを使用するので、これと象牙質との界面に「ギャップのない」「密着性」を獲得できるか、否かがポイントとなる。

 接着修復では必ず歯面の酸処理が要求されるため、象牙細管は必ず開口する。しかし、後続のレジン系材料がギャップなく密着適合すれば、刺激の伝達路は遮断され、歯髄刺激は発生しない。ところが、接着不全によりギャップが発生すると、辺縁微小漏えいにより歯髄刺激が惹起されたり、辺縁封鎖が良くても温度変化や咬合圧による歪みがギャップの容積変化を起こし、ポンピング作用による細管内組織液の移動により痛みが発生する。つまり、セラミックインレーやクラウン装着後のしみる症状は、接着不全が原因なのだ。ここに、接着の原理をしっかりと理解し、接着性レジンセメントを正しい術式で使用する必要があることの決定的根拠がある。修復材料がメタルからセラミックスへ移行しつつある現代歯科医学において、接着性レジンセメントの正しい使用法の理解は必須といえる。

参考文献:

冨士谷盛興・千田 彰.象牙質知覚過敏症 第2版.医歯薬出版.2013.

象牙質知覚過敏症(4)~炭酸ガスレーザーの知覚過敏に対する応用~

 今日もしつこく象牙質知覚過敏症だ。ペリオや咬み合わせの臨床では日常的に遭遇するので、自分の臨床をブラッシュアップするためだ。

 象牙質知覚過敏症にレーザーは有効だ。今日は特に当院にも置いているCO2レーザー(ヨシダOPELASER PRO)の知覚過敏に対する応用について書こう。

 CO2レーザーは組織表面吸収型レーザーであり、知覚過敏に応用する際は、連続波(CW)の応用は避け、スーパーパルスモード・リピートモードを用いて歯表面の炭化、亀裂等を防ぐことを心がけねばならない(1)。レーザー単体で多くの症例で症状が消失あるいは減少するが、それでも薬剤の追加が必要な場合は、レーザー照射後に薬剤塗布する順番がいいだろう。レーザーは、知覚鈍麻や組織凝固、細管閉鎖の3つの効果が期待できるが、CO2レーザーは水に対する吸収効率が高いので、特に組織凝固により効果を発揮するからだ。レーザー照射後、細管封鎖の薬剤を塗布するのは理に適っている。

 安定したCaF2の生成のため、CW Cont 0.6W またはSP1 RP 0.6W 100/300msecで照射する。尚、CW Cont とはContinuous Wave irradiation(連続波、連続照射)を、 SP1 RP 0.6W 100/300msec とは、  Super Pulse wave, Repeated Pulse irradiation (スーパーパルス波、繰り返し照射)のこと。SP1 は スーパーパルスモード1を、RPはリピート(繰り返し)照射モードを、0.6Wは照射出力を、100/300msecは分子の100が100msec(100/1000秒)の照射時間を、分母の300msecが300/1000秒の照射休止時間を表している(2)。また、1点に熱エネルギーが集中しないよう、必ずチップを動かしながら照射することが大切だ。

 

参考文献:

1 冨士谷盛興・千田 彰.象牙質知覚過敏症 第2版.医歯薬出版.2013.

2 改定版 SP搭載型CO2レーザー照射マニュアルチャート -31症例ー 第3版. 北九州レーザー研修センター 堀江和彦著. 2007.

象牙質知覚過敏症(3)~知覚過敏抑制剤の作用機序別一覧~

 今日も象牙質知覚過敏症だ。臨床面で日常的に遭遇するものだし、薬剤の作用機序や物性を理解しておくことは重要だからだ。

 今回は、知覚過敏抑制剤について、作用機序別に、網羅的に商品名を調べてみた。

 まず「細管封鎖」だけを狙う薬剤だが、以下のものがある。

1 サホライド液歯科用38%(ビーブランド・メディコ-デンタル)

2    Fバニッシュ歯科用5%(ビーブランド・メディコ-デンタル()

3 スーパーシール5秒(モリムラ・エイコ―)

4 ナノシール(日本歯科薬品)

5 ティースメイトデセンシタイザー(クラレノリタケデンタル)

6 PRGバリアコート(松風)

7 G-ガード(ジーシー)

8 ハイブリッドコートⅡ(サンメディカル) 

9 トクヤマシールドフォースプラス(トクヤマデンタル)

10 スコッチボンドユニバーサルアドヒーシブ(3M ESPE)

11 フジフィルLCフロー(ジーシー)

12 クリンプロXTバーニッシュ(3M ESPE)

13 フジⅦ(ジーシー)

14 MSコートONE(サンメディカル)

15 MSコートF(サンメディカル)

 

また、「知覚鈍麻」と「細管封鎖」の両方を同時に狙う以下の薬剤がある。

 

16 シュミテクトシリーズ (グラクソ・スミスクライン)

17 デンタ―システマしみるケア(ライオン)

18 スマートプロテクトソフト(茂久田商会)

19 システマセンシティブソフトペースト(ライオン)

20 ガム・デンタルジェルセンシティブ(サンスター)

21 メルサージュヒスケア(松風)

 

 さらに、組織液の凝固を狙う薬剤として、以下のものがある。

22 グルーマ・ディセンシタイザー(へレウスクルツァー)

23 デセンシ―(日本歯科薬品)

 

参考文献:

冨士谷盛興・千田 彰.象牙質知覚過敏症 第2版.医歯薬出版.2013.

 

象牙質知覚過敏症(2)~その治療戦略~

  さて、象牙質知覚過敏症の治療戦略は、1 象牙細管を封鎖する 2 知覚を鈍麻する 3 細管内組織液を凝固させる なのだが、その具体的方法について述べたい。

 まず、一番目の象牙細管を封鎖する方法には、歯面に薬液を塗るだけの方法と、歯面に窩洞形成した後でセメント充填する方法がある。薬液を塗る方法は、歯面表層にカルシウム化合物を析出させることで細管入り口を封鎖するものだ。窩洞形成するものはグラスアイオノマーセメントやレジン系セメントで充填することで細管を封鎖する。この細管入り口を封鎖するものが、商品として最も多い。

 二番目の知覚を鈍麻する方法として、まず薬液塗布がある。これは歯面表層でなくそれを細管内部に浸透させ、知覚神経終末を鈍麻させるものだ。この薬液としては硝酸カリウムを有効成分とする製品が一般的である。また、Nd:YAGレーザーや半導体レ―ザーは深部に到達するので、レーザーのLLLT効果を利用して感覚受容器の鈍麻を図る方法もある。ただし、レーザーの条件設定によっては歯髄組織や歯周組織に壊滅的ダメージを与えるリスクがあるので条件設定には慎重になる必要がある。

 三番目の組織液を凝固させる方法としては、薬液を塗布して細管内に浸透させ、組織液を凝固させるものがある。この薬液に含まれている主成分は2つあり、一つは組織固定剤であるグルタールアルデヒド、もう一つは親水性モノマーであるハイドロキシエチルメタクリレート(HEMA)だ。接着性レジンのプライマーが歯肉につくと歯肉が白くなるが、これはHEMAなどの親水性モノマーのタンパク凝固作用によるもの。また、組織表面で吸収されるCO2レーザーを歯面に照射することでレーザーのエネルギーにより細管内組織液を凝固させる方法もある。この場合も、レーザー照射の条件設定を慎重にする必要があり、パワーが強すぎると歯質にダメージを加えるリスクがあるのはNd:YAGレーザーや半導体レ―ザーの場合と同じだ。

 最後に、これは重要なことなのだが、上記の3つの方法を実施するには順番があり、先ず「鈍麻」、次に「凝固」、そして最後に「細管封鎖」の順でおこなうことが大切だ。最初から細管入り口を封じ込めてしまっては、内部に薬液を浸透させられなくなるからだ。実際の臨床では、一度の知覚過敏処置では効果が不十分なことがあり、その際、複数の知覚過敏抑制剤を選択する場合は、上記の順番を遵守することが鉄則なのだ。知覚過敏抑制剤の作用機序をよく理解しておかないと、無意味な処置を施してしまいかねないので要注意だ。

  参考文献:

冨士谷盛興・千田 彰.象牙質知覚過敏症 第2版.医歯薬出版.2013.

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