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咬み合わせと認知症 ~不良な咬み合わせは認知症になりやすい~

超高齢社会に入った我が国において、認知症は要介護状態になる原因疾患として重大な社会問題になっています(1)。
 
2010年に厚生労働省が実施した国民生活基礎調査によると、認知症は介護が必要になった原因の15.3%を占め、脳血管障害(21.5%)に次いで二番目に多い疾患です。
 
厚生労働省の推計では、2010年現在の認知症高齢者は約280万人(65歳以上人口の9.5%)であり、2025年には470万人(65歳以上人口の12.8%)になるとされています。
 
従来より、認知症の人は口腔内状態が不良であることが報告されていますが、近年、その口腔内状態の不良は認知症になった結果ではなく、口腔内状態の不良が認知症の発症に影響している可能性について報告がなされています(2)。
 
咬み合わせと認知症との関係については、義歯使用の有無と認知症との関係を調べたコホート研究(同じ集団を経年的に追跡して行く研究)が2つあり、いずれも有意な(=統計学的に差がある)関係を報告しています。
 
一つは65歳以上の日本人4,425人を4年間追跡した研究で、歯がほとんどなく義歯未使用の者は認知症発症のハザード比が1.85(1.04~1.74)(認知症のなりやすさが85%増加する)でしたが、歯がほとんどなくても義歯を使用している者のハザード比は1.16(0.78~1.74)で有意差はありませんでした。つまり、義歯使用により、認知症のなりやすさが抑制されたのです(3)。
 
もう一つは米国の研究で、5、468人を18年間追跡したところ、上顎に10歯以上、下顎に6歯以上を有する者を基準として、上下顎に有する歯がそれ未満で、かつ義歯未使用の物のハザード比は1.91(1.13~3.21)(認知症のなりやすさが91%増加する)でした(4)。
 
以上の二つの研究は、歯数が減り咬合不全が起ると認知症になりやすくなるが、義歯を入れて咬めるようにしておくことで認知症のなりやすさの上昇を防げる、ということを示しています。
 
咬み合わせの不良が認知症につながりやすい理由としては、ストレスとの関連が推察されています。ストレスに長くさらされていると、血液中に副腎皮質から分泌されるコルチゾールが放出されますが、このコルチゾールが脳内で記憶をつかさどる海馬に作用すると、海馬の機能が低下し、新しいことを記憶することが難しくなります。
 
咬み合わせの不良の者は、咬めないことで慢性的なストレス状態に陥っている可能性があります。したがって、咬み合わせの不良は海馬の機能低下を引き起こし、認知機能の低下を招くと考えられます(5)。ストレスを回避するためにも、よく咬めるようにすることは認知症予防の観点から重要です。
 
また、よく咬むと、脳の血流量が増えるとともに(6)、神経活動が活発になり、記憶力が向上するので、認知症を予防できます(7、8)。
 
さらに、人においても、咬合干渉(こうごうかんしょう=咬頭篏合に至っていない状態で特定の歯が他の歯とぶつかること)を起こしている咬み合わせを調整することで、前頭前野の脳血流動態に変化が起こることが確認されています。このことは、不適切な咬み合わせは中枢神経にも明らかに影響を与えることを示しています(9)。
 
咬み合わせと認知症 参考文献
 
  1. 厚生労働省. 平成22年国民生活基礎調査の概況.http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html 2016年3月27日にアクセス)
  2. 山本龍生. 4. 口腔保健と要介護状態を引き起こす原因疾患との関係 2)認知症.健康長寿社会に寄与する歯科医療・口腔保健のエビデンス 2015:  152-158. 日本歯科医師会編. 東京. 2015.
  3. Yamamoto T, Kondo K, Hirai H, Nakade M, Aida J, Hirata Y. Association between selfreported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES) Project. Psychosom Med 2012; 74: 241-248.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Psychosom+Med+2012%3B+74%3A+241-248.
  4. Paganini-Hill A, White SC, Atchison KA. Dentition, dental health habits, and dementia: the Leisure World Cohort Study. J Am Geriatr Soc 2012; 60: 1556-1563. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=J+Am+Geriatr+Soc+2012%3B+60%3A+1556-1563.
  5. 小野塚 實. 噛む力でストレスに勝つ: 74-86. 東京. 健康と良い友だち社. 2011.
  6. Hasegawa YOno THori KNokubi T. Influence of human jaw movement on cerebral blood flow. J Dent Res. 2007 Jan;86(1):64-68.  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=J+Dent+Res.+2007+Jan%3B86(1)%3A64-68.
  7. Interactions between occlusion and human brain function activities. Ohkubo C, Morokuma M, Yoneyama Y, Matsuda R, Lee JS. J Oral Rehabil. 2013 Feb;40(2):119-129.  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=J+Oral+Rehabil.+2013+Feb%3B40(2)%3A119-129.
  8. Mastication for the mind--the relationship between mastication and cognition in ageing and dementia. Weijenberg RAScherder EJLobbezoo F. Neurosci Biobehav Rev. 2011 Jan;35(3):483-497.   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Neurosci+Biobehav+Rev.+2011+Jan%3B35(3)%3A483-497.
  9.  Influence of restoration adjustments on prefrontal blood flow: A simplified NIRS preliminary study. Sasaguri KOtsuka TTsunashima HShimazaki TKubo KYOnozuka M. Int J Stomatol Occlusion Med. 2015;8(1):22-28.  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Int+J+Stomatol+Occlusion+Med.+2015%3B8(1)%3A22-28.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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