ペリオは臨床的には治癒させられる疾患

 歯周病は厳密な意味では治癒のない疾患であると以前に書いたが、臨床的には十分治癒する。快適な口腔内環境を継続的に維持することは可能だ。歯周病原菌を口腔内から絶滅させることはできないが、臨床的に問題となる症状を起こさない程度にその数を一定レベル以下に抑えておきさえすれば、それが可能となる。その方法とはそれほど困難なものではないが、要はそれをやるかやらないか、だけの問題だ。要するに患者さん本人のやる気の問題で、治りたいと強く願うのであれば、治る方向に向けて自助努力してくれれば結果は必ずついてくる。歯周病とはわけのわからない、複雑怪奇な病変ではない。ただの感染症の一種に過ぎないのだ。治癒に向かわせるその方法論はすでに明確になっている。

 

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治療前右側方

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治療前正中

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治療前左側方

 

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治療後右側方

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治療後正中

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治療後左側方

 

上の写真は、上段が治療前、下段が治療後の歯周病患者さんの口腔内写真だ。行った治療は、歯周基本治療と歯肉剥離ソウハ術のみであり、すべて保険の範囲内だ。歯周再生療法を用いなくとも、ここまではきちんと炎症を終息させられる。ペリオは臨床的には、十分、治癒させられる疾患である。

インプラント補綴は高精度が要求される

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このような無歯顎の状態にインプラントフルブリッジを製作する場合は、細心の注意と共に高い精度で作業することが、歯科医院側にも、ラボ側にも要求される。スクリュー固定式だから、多少、フレームとアバットメントがすいていても、ねじ込んでしまえば入ってしまう、と安易に考えてはいけない。許容の範囲を超えた不適合補綴物を無理やりねじ込むと、補綴物か、インプラント体か、または周囲骨がダメージを受けて破壊されるからだ。

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アバットメントレベルの印象採得は、このようなアバットメントの三次元的位置情報をトランスファーするインプレッションコーピングをアバットメントに正確に接続し、各コーピングをシリコン精密印象でピックアップする。このような複数のインプラントの三次元的位置情報を正確に作業模型に取り込む方法はいくつかあるが、今回は、今のところ当院とデンタルラボとで取り組んでいる方法を紹介しよう。

 

 

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先ず、通法通り各コーピングをシリコン印象内に取り込む。この時、各コーピングが口腔内と全く同じ状態を反映出来ているとは限らない。シリコン印象の誤差のリスクがあるからだ。

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左の印象で起こした模型上で各アバットメントに接続したシリンダーをゆるく取り込むような剛性の高いメタルフレームを作製する。このメタルフレームはキャストではない。そして、試適の目的だけに製作される。口腔内で各アバットに接続したシリンダーを、フレーム内のホールに取り込む形とし、その状態で即重レジンを用いてそれぞれのシリンダーをメタルフレームと固定していく。この際、テンポラリーシリンダーとフレームを軽くレジンで固定していれば、スクリューでしっかりアッバットとシリンダーを締結した時点でシリンダーがフレームから外れれば、誤差の存在を示すことになる。ベリフィケーションインデックスとして使用できるわけである。

 

 

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各テンポラリシリンダーとメタルフレームとの位置関係を確認し、その接続を強固にする為、メタルフレームに用意されているホールから即重レジンでシリンダーを固定する。

  むろん、各アバットとシリンダーとの接続を、デンタルXPで確認しておく。

 

             

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結果として、メタルフレームによって束ねられた各シリンダーとメタルフレームが一塊として口腔外に取り出される。これが、口腔内の各アバットメントの三次元的関係を示す正しいインデックスとなる。このような注意深い観察と細心の注意がインプラント補綴には要求される。

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一方、咬合高径や咬合平面の決定には、総義歯臨床の手法がそのまま応用できる。何にもない空間に、歯列を作り出す技術は総義歯臨床の基礎力が必要だ。

 以上、当院で試みているインプラントフルブリッジの精度を確保する一法を紹介した。

 

 

 

 

本日は,インプラント周囲炎オペ後3年半経過した症例のメインテナンスをしました.

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右写真は本日のメンテナンス時のものです.右上顎にはインプラントが複数本,埋入されていますが,そのうち,奥から2番目が3年半前に,奥から4番目が1年半前にインプラント周囲炎を起こしました.その都度,インプラント周囲炎オペをして対応しています.

 

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右デンタルX線写真は,3年半前にインプラント周囲炎を起こした際のものです.奥から2番目のインプラント頸部の歯槽骨辺縁は不明瞭で,そのレベルがインプラント先端部に移動しています.つまり.マージナルボーンロス(辺縁骨の吸収)が起こっていました.

 

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この症例で行ったインプラント周囲炎オペのコンセプトは,天然歯の歯周病の場合でいうところの「切除療法」です.

骨縁を切除することで,骨縁レベルを平坦化し,かつそのレベルをインプラント尖端側に移動させることが出来,清掃性が改善されプラークのつきにくい歯周環境を構築することが可能になります.

右デンタルX線写真は現在のものです.骨縁は明瞭で,経過良好です.

 

本日はストローマンインプラント上部にセラミック冠をセットしました.

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左下6番7番はストローマンインプラントが植立されています.それに接続され,粘膜を貫通して口腔に突き出しているアバットメントと呼ばれる土台の部分に,これからセラミック冠を装着します.

 

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ジルコニアフルミリング・オールセラミック冠が完成しました.これをインプラント上のアバットメントにセメントで固定します.

 

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粘膜上に,ラッパ状にテーパーのついたインプラントカラーの鏡面研磨部分の一部がのぞいていますが,これが良いのです.ストローマン・ティッシュレベルインプラントの非常に良いところは,鏡面研磨された粘膜を貫通する部分がインプラントフィクスチャーと一体となっていることです.この特徴により,適切な生物学的幅径が必ず確保され,マージナルボーンロスが起りにくくなります.くわえて,粘膜下に強いアンダーカットができることがなく,セメントの残留問題がクリアーされます.

 

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装着時に撮影したデンタルX線写真です.アバットメントとセラミック冠の適合は良好です.また,アバットメントと冠のマージン部の移行はスムーズで,インプラント周囲炎の原因となるセメントやプラークの残留が起こりにくいことが予想されます.

 

今日は左下6を抜歯後、インプラントを前提に、リッジプリザベーションをしました。

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 歯を抜くと、直ちにそれまで歯根を支えていた歯槽骨の吸収が急激に起こることが知られています。その吸収は、歯槽骨の高さも幅も減少させます。後続治療としてインプラントが予定されている場合は、その吸収は不都合です。インプラントは、しっかりとその四方が骨で支えられていることが、長期のインプラントの安定と強く関係しているからです。

 この抜歯後の歯槽骨吸収を抑制する方法として、リッジプリザベーションがあります。これは、抜歯窩に骨補填材と呼ばれる、将来自分の骨を誘導する活性を持つ生物材料や、ハイドロキシアパタイトという吸収されにくいリン酸カルシウム結晶を抜歯窩に詰めるテクニックです。これにより抜歯後の骨吸収は最小限度に抑制されます。

 今日は、右のデンタルX線で示されるような歯根周囲に著しい骨吸収を伴った左下6番を抜歯し、即時にリッジプリザベーションを行いました。

 

 

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抜歯窩は感染を伴った不良肉芽で充満されていました。これを時間をかけて、徹底的に除去することが重要です。感染病巣を残したまま骨補填しても、決して良質な骨は再生されないからです。

 

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抜歯窩に骨補填材として、凍結脱灰乾燥骨を補填し終わったところです。最後に補填材表面をフィブリン膜(CGF)でカバーして、オペ終了。このリッジプリザベーションの有効性は、システマティックレビューとメタアナリシスで確認されています。

Effect of alveolar ridge preservation after tooth extraction: a systematic review and meta-analysis.

Avila-Ortiz G, Elangovan S, Kramer KW, Blanchette D, Dawson DV.

J Dent Res. 2014 Oct;93(10):950-8. 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24966231

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インプラントの好ましい活かされ方 ~症例3~

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重度歯周炎の患者様においては、咬合崩壊(咬み合わせが壊れている状態)が高頻度で認められます。したがって、重度歯周炎の治療においては、咬合再構成(壊れた咬み合わせを再び作り上げること)を伴う全顎的治療を成功させることが重大なテーマです。

右写真は、重度歯周炎の患者様の初診時の状態です。

 

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下顎の咬合面観です。両側の下顎臼歯は欠損しており、一応、部分義歯を他院で作製しておられましたが、安定せず、うまく咬めないとのことで当院にお見えになりました。

 

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下顎義歯が咬めない原因として、対合の右上顎臼歯の垂れ下がりをそのままにして義歯を作成したために正常の形態の人工歯をならべるスペースがなくなり、咬合面が真っ平らで高さのない人工歯が使われていたこと、そして咬合平面がゆがんでいるために左右のバランスの取れた安定した咬み力を義歯に伝えられないことが考えられました。

 

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6本の下顎前歯は重度の歯周病になっており、歯根は歯槽骨の支持がほとんどありません。歯周病菌の感染に加えて、不安定で動く義歯による歯の揺さぶりや、咬めない義歯を代償して前歯で咬むことで過剰な負荷が前歯にかかり骨吸収の進行を加速させたと考えられます。ポーセレンメタルボンド冠でスプリント(連結固定)されていたので動揺はあまり目立ちませんでしたが、もしも一本一本を切り離せばぐらぐらになっていたでしょう。

このような状態の歯に,留め金を介して負荷をかける部分義歯の維持を担わせたくなかったので、歯周治療をしっかり行った後、欠損部の補綴治療としてインプラントを選択しました。

 

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右写真は治療後の状態です。咬合平面のゆがみを是正するため、上顎の歯列も正しく整える必要があり、歯周治療後、上顎天然歯にはセラミック冠を装着しました。

 

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歯周治療を終え、下顎臼歯部の欠損の補綴はインプラントで支持するセラミックブリッジとしました。

 

 

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両側下顎臼歯部の欠損に対しインプラントをそれぞれ2本、右下犬歯は歯肉縁下の深い虫歯のために抜歯になったのでそこにもインプラントを投入して、計5本のインプラントで下顎歯列のアーチを復元しました。

 

 

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治療後の下顎前歯のデンタルX線像ですが、初診時吸収の進行が著しかった歯根周囲の歯槽骨はある程度骨量が増えて回復し、かつ安定しています。歯周ポケットの深さも正常に回復しています。

歯周基本治療後、特別に歯周外科処置は行いませんでしたが、臼歯部にかかる大きな咬合力をインプラントに担わせることで、前歯が義歯の維持から解放され、本来の役割を果たすことだけにその役割が軽減されたことが骨量の回復につながった考えられます。

インプラント周囲炎、並びに咬合を配慮して慎重な管理を行えば、インプラントは重度歯周炎の咬合再構成に有用であると思われます。

 

 

インプラントの好ましい活かされ方 ~症例2~

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すべての歯列をインプラントで作り上げるのは歯科医にとっては魅力的かもしれませんが、患者様にとってはどうでしょう?おそらくはいささかハードルが高いのではないでしょうか?私はインプラントが最も活かされる局面は、おそらく天然歯と共存するケースではないかと思います。右のパノラマX線写真の歯列の中には、すでに失われていたり、今後残すことが不可能な歯が何本か含まれています。

 

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右上顎の臼歯部には、保険のフルメタルブリッジが装着されていましたが、よくあることなのですが、歯頚部の不適合に起因する磨き残しから、歯頚部カリエス(虫歯)ができていました。この歯頚部カリエスはかぶせ物の裏側の歯質を侵しますが、根尖側に著しく浸食している歯は抜歯となります。

 

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反対側の左上顎の歯の状態も同様で、歯頚部カリエスが見られました。天然歯はとても貴重なもので、できるだけ抜きたくないのですが、どうしても保存が困難な時はやむなく抜かざるを得ない、しかし残りの歯はこれ以上削ったり、かぶせ物を入れたりして痛めつけたくない、こういう時こそインプラントが活かされると思います。

 

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右のパノラマX線写真は治療後ですが、7本の歯はインプラントに置き換わりましたが、天然歯もまだまだ残っています。抜きたくないが、どうしても抜かないといけない時、インプラントで失った歯を代償するけれども、残りの歯はできる限り本来の寿命を全うさせたい、そのような願いを込めてインプラントは使われるべきものと思うのです。この場合、インプラントの役割は残存する天然歯の救済です。

 

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インプラントは垂直的な咬合力を支える能力が高いため、残存する天然歯が受ける咬合力の荷重を免荷出来ます。よって、救済の役割を果たせるわけです。

 

 
 
 
 
 
 

 

 

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インプラントの好ましい使われ方とは、残存する天然歯を少しでも長く持たせることに貢献する形で歯列内に登場するような使われ方だと思っています。

 

 

インプラントの好ましい活かされ方 ~症例1~

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初診時の状態。前歯3本が外傷で失われたケースです。

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このようなケースでは、ブリッジ作製のためにさらに欠損の両サイドの2本の歯を削るのはもったいない話です。それで、初診時は右写真のような部分義歯を使用していらっしゃいました。しかし、部分義歯は不安定ですし、審美的ではありません。

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治療後。欠損部に2本のインプラントを植立し、それを支台としてブリッジを作製しました。

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インプラントは天然歯を削らないで欠損部を修復出来ます。貴重な天然歯を守ることが出来たという意味で、本症例ではインプラントが有効に活かされています。

全顎のインプラント治療   

 

 

 

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毎回、自分で着脱しないといけない総義歯を嫌う患者さまには、固定性ブリッジが可能な全顎インプラント治療が喜ばれます。右写真は、状態が悪く保存が困難な上顎のすべての歯を抜歯後、インプラントで支持するブリッジを作製して咬合を再構成したケースです。  

 
 
 
 
 
 
 

2015121017569.jpg初診時、両側の奥歯は喪失しており、奥歯でものが咬めない状態でした。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

2015121018321.jpg右写真は治療後の状態です。上顎の状態の良くない歯はすべて取り除き、インプラントで支持するハイブリッドセラミックブリッジで歯列を作り上げました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
20151210182342.jpg今回のブリッジはインプラントに対して、ねじ止め固定されています。インプラントに対する上部構造の固定方法は、一般にセメント固定とねじ止め固定の二つの方法があり、それぞれに良い面がありますが、容易に着脱できるのはねじ止め固定です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2015121018304.jpg今回のような全顎歯列をワンピースのブリッジで制作する場合には、インプラント周囲粘膜の手入れや、万一ブリッジが破損した際の修理が容易なので、ねじ止め式が良いと考えています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
20151210185155.jpgこのような大がかりなインプラント補綴は、治療期間が長くなり、費用も高くなりますが、どうしても義歯を受け入れたくない方には大きな福音となります。総義歯よりもしっかり咬めますし、何よりも精神的に、自分はまだまだ老けていないと思いこめるところに大きな価値があると思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今日は右上顎臼歯部にe-max cad/cam冠を装着しました。

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 右上7生活歯のプレパレーションが完了した状態です。

同部に装着するセラミック冠を、“セレック”システムで製作しました。

 

 

 

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  同部に院内ラボで製作したオールセラミック冠(e-max cad/cam  crown)を接着性レジンで装着しました。

第二大臼歯は強い咬合力が加わるので、念入りな咬合調整が必要です。