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歯周治療におけるメインテナンスの位置づけ

 今日は県の歯科医師会主催の香川県歯科医学大会に参加し、歯科衛生士対象セミナー「歯周治療におけるメインテナンス~プロフェッショナルな歯科衛生士をめざして~」を聴講した。自分は衛生士教育に関心が高まっているタイミングなので、歯科衛生士対象ではあったが勉強になった。

 どういった点が勉強になったかというと、原点だが、歯科衛生士の職域についての正確な理解ができた。いままで、歯科衛生士法を詳しく読んだことはなかったが、著名な講師の先生(日本歯科衛生士会の専務理事をしておられる現役歯科衛生士の方)のお話は地味な導入ではあったが、これが為になった。まず、歯科衛生士の業務内容について教えて頂いた。

 歯科衛生士が関与する業務は、1.歯科予防処置 2.歯科診療の補助 3. 歯科保健指導の3つの領域があり、また、これらの仕事は別の観点から絶対的医行為と相対的医行為に分かれるのだという。前者は歯科医師のみが行えるもので、後者は歯科医師が歯科衛生士の能力を適正と評価した場合に限り歯科衛生士に指示してやらせることが可能な業務である。絶対的医行為における歯科衛生士の仕事は歯科医師の診療介助であり、相対的医行為におけるそれは、スケーリングやルートプレーニングなどが該当するという。

 この点は意外だった。予防が歯科衛生士の本業であるからブラッシング指導などは歯科保健指導にあたり問題ないと思っていたが、スケーリングやルートプレーニングも同様に衛生士独自の判断で自由にできる医療行為と思っていた。しかし、これは認識が誤っており、スケーリングやルートプレーニングは歯科医師の指示の下で、歯科医師が依頼者をその実施が適正と判断することが前提で、歯科医師に代わって行うことが出来る医行為なのである。

 本来、歯科医師がリードするべき仕事だったとは!これまで、スケーリングやルートプレーニングは歯科衛生士さんの聖域で、歯科医師がそのやり方にとやかく注文を付けてはいかんものと誤解していた。これまで、スケーリング・ルートプレーニングを歯科衛生士に丸投げしていたことを反省し、歯科医師の指導が必要な重要な医療行為である、と再認識した次第。

 もう一つの収穫は、メインテナンス≠PMTCということ。メインテナンスも歯科医師が近寄ってはならぬ歯科衛生士の聖域と誤解していたが、メインテナンスは治療後の歯周病や齲蝕が悪くなっていないかチェックする機会であって、けっして清掃するだけではない。正確にいえば、メインテナンスの内容は、1.悪くなっていないか、悪くなるようなことが起っていないかの確認 2.悪くならないための対応 の2つに分けられる。1.における具体的チェック項目としては、全身状態の把握(生活習慣、あらたな疾患、服用薬の変更や追加、喫煙状況、加齢、ライフスタイル)、歯周組織の評価(プラークの付着や付着部位、歯肉の発赤、腫脹、退縮、プロービング値、BOP、歯の動揺度、エックス線写真による骨吸収の判読)、歯の観察(根面カリエス、トゥースウエア、歯の破折、歯の変色、エックス線写真(隣接面カリエス)、補綴物の状態、フィステルの有無、補綴物対合歯の摩耗)、義歯(適合性、粘膜のチェック、プラークの付着)、インプラント(インプラント周囲炎の有無、アバットメントスクリューのゆるみ、プラークの付着、知覚過敏、力、といった多くの項目があげられるのだ。2.の悪くならないための対応が、プロフェッショナルケアであり、セルフケアの支援強化である。決してメインテナンスって、患者さんを気持ちよくうたたねさせるような口腔清掃をすることではないということだ。

 これって、重大な発見だ。文字にして列記すると、悪くなっていないかのチェック項目が、口腔ケアに比べて圧倒的に多いではないか!これって、頭をぐるぐる回してないと仕事が務まらんぞ。メンテナンスはまさに歯科医の領域だ、それを歯科医の指示をうけて信頼できる歯科衛生士が担当するだけのことだ。と、いうことで、メインテナンスはとても重要で、プロフェッショナルな知識と技量が必要な仕事であることが理解できた。

 こういった項目をリストに加えたメインテナンスマニュアルを歯科医師監修で作製したいものだ。

 

脂肪病としてのメタボリック症候群

 歯周炎と全身疾患との関連性について、以下の7つの疾患は歯周病との強い関連性が疑われている(1)。すなわち、1)糖尿病、2)肥満・メタボリック症候群、3)アテローム性動脈硬化、4)周産期合併症、5)肺炎、6)腎臓病、7)関節リューマチ、だ。これらの疾患は炎症性の疾患と考えられている。つまり、炎症性サイトカインがこれらの疾患の病態に関連している。そして、炎症性サイトカインは、基本的に炎症を起こしている組織に発現するわけだが、その最大の産生組織は脂肪組織と思われ、脂肪組織由来の炎症性サイトカインが血行性に全身に運ばれ、上記の炎症性疾患の発症に関与している可能性がある。したがって、脂肪組織の上記疾患のリスク因子としての重要性を鑑み、今回は脂肪病としてのメタボリック症候群にフォーカスしたい。

 近年、心血管疾患と糖尿病は、肥満の先進国の主要な疾患および死因となっている。その原因の解明と危険因子の同定のために多くの調査が行われた結果、両者の危険因子が同一個人に集積する傾向があることが明らかとなった。そして、この危険因子の集積はメタボリック症候群と呼ばれるようになった。以下、文献(2)より引用。

「メタボリック症候群の主要な機序は、インシュリン抵抗性、腹部肥満、炎症と考えられ、他に、食事、喫煙、運動不足、加齢、社会経済的要因、ホルモン失調状態、環境汚染物質、などが考えられる。」

「1981年、Rudermanらは代謝的に肥満だが正常体重の人々が存在し、高インシュリン血症と脂肪細胞の肥大化が特徴であることを指摘し、1988年、Reavenはインシュリン抵抗性と高インシュリン血症、高中性脂肪血症、低HDL血症、高血圧が集積して糖尿病と心血管疾患にいたるとするsyndrome Xという概念を提唱した。翌年、Kaplanは腹部肥満、糖尿病、高血圧、高中性脂肪血症の集積を死の四重奏として提唱し、1991年、DeFronzoとFerranniniはsyndrome Xと同様の疑念をインシュリン抵抗性症候群と命名した。1994年、中村らは、皮下脂肪は内臓脂肪の病的作用に対して、むしろ、生体保護的に作用すると考えて、男性で内臓脂肪症候群なる概念を提唱し、1998年、Lamarcheらは男性で、高インシュリン血症、アポリポタンパクB高値、small dense LDLの組み合わせをatherogenic metabolic triadとして提唱した。1999年、WHOはインシュリン抵抗性症候群の診断基準を初めて定義し、メタボリック症候群と命名したが、ヨーロッパインシュリン抵抗性研究会(EGIR)はこれを改変して糖尿病を除外し、再びインシュリン抵抗性症候群と命名した。2000年、Lemieuxらは男性で、atherogenic metabolic triadの簡便診断として高中性脂肪ウエストの概念を提唱し、2001年、National Cholesterol  Education Program(NCEP)のExpert Panel on the Detection, Evaluation,and the Treatment of High Blood Cholesterol in Adult (ATPⅢ)は腹部肥満、高血糖、高血圧、高中性脂肪、低HDL の5つの診断項目中、3つを満たせばメタボリック症候群とする簡便な診断基準を発表して、これが世界的に普及した。しかし、NCEP診断基準はインシュリン抵抗性の直接的なマーカーを含まないため、2003年、アメリカ内分泌学会は耐糖能異常を含み、糖尿病は除外したインシュリン抵抗性症候群の主観的な診断基準を提唱した。2004年、Ridkerらは、高感度CRPが肥満とインシュリン抵抗性に強く関連しており、心血管疾患の危険因子としても確立したことから、高感度CRPをメタボリック症候群の診断項目に加えることを提唱した。2005年、国際糖尿病連合(IDF)は腹部肥満を必須項目とするメタボリック症候群の世界基準を提唱したが、アメリカ循環器学会(AHA)とアメリカ心臓肺血液研究所(NHLBI)はIDF診断基準よりもNCEP診断基準の方が良いという共同声明を発表し、アメリカ糖尿病学会(ADA)とヨーロッパ糖尿病学会(FASD)はこれまでのどの診断基準も症候群と称するに足る科学的根拠がないので、人々にメタボリック症候群というレッテルを貼ってはならないという共同声明を発表した。

「2002年、日本肥満学会(JASSO)はBMI 25kg/m2以上、内臓脂肪面積100cm2以上(男女無差別)、腹囲男性85㎝以上、女性90cm以上を「肥満病」と定義し、2005年、メタボリックシンドローム診断基準検討委員会はJASSOの提案した「内臓脂肪症候群」診断基準を日本のメタボリック症候群の診断基準とした。この診断基準の問題点を列記すれば以下のようである。- - - - - 」

引用ここまで。

 長々とメタボリック症候群の国際診断基準と日本の診断基準が決定されるまでの経緯を引用したが、メタボリックシンドロームの診断基準は海外と日本では異なるし、その診断基準の妥当性についてもいまだに議論の余地が残る状況であることを伝えたかった。要するに、肥満は多くの重大な疾患の発症に関与していることは間違いないが、どういう条件が整ったときに肥満と他の重大な疾患との関連性が正の相関にあるのか、という点で議論の余地があるようだ。たとえばインシュリン抵抗性にしても、明らかな肥満体形であるにもかかわらず糖尿病でない人はいるし、非肥満であるにもかかわらず糖尿病である人もいる。その一方で、炎症のマーカーである高感度CRPが肥満とインシュリン抵抗性に強く関連しているとの報告(2)があり、メタボリック症候群は炎症と強い関連性がある気配が濃厚となってきている。

 さて、いよいよ本稿の結論に入るが、グチャグチャややこしい状況であればあるほど本質をとらえることが重要になる。今回のメタボリック症候群のリサーチで自分がとらえた結論は、メタボリック症候群の本質は脂肪組織へのマクロファージの集積とそれに伴う炎症であるということだ。そして、全身脂肪量や内臓脂肪量は炎症の程度と関係せず、あくまでも脂肪の質が炎症と関連する、と捉えた。

(1)築山鉄平、宮本貴成.歯科医療のイノベーションを考える. the Quintessence.Vol.36 No.1.118-141.2017

(2)小田栄司.脂肪病としてのメタボリック症候群. 人間ドック23(1):7-15.2008

歯周病と肥満~肥満は歯周病を起こし易い~

  肥満やメタボリックシンドロームを有する人は糖尿病になりやすいことはよく知られている。と、同時に歯周病も悪化させ易いことが解っている(1)。その理由は、昨日も言及したとおり、炎症性サイトカインは肥満内臓脂肪組織において発現が上昇しているからだ。この炎症性サイトカインがインスリン抵抗性に関与しているのだが、歯周炎の進行にも関与している。IL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインは、歯周組織でRANKL/OPGのバランスを歯槽骨吸収の方向に傾けていく。だから、肥満脂肪組織から放出される炎症性サイトカインは、歯周病を悪化させるのだ。

 ところで、以前は脂肪組織における炎症性サイトカインを産生する細胞は大型化した脂肪細胞と思われていた(その大型脂肪細胞から分泌されるサイトカインはアディポカインと呼ばれる)。ところが、最近になって、脂肪組織における炎症性サイトカインは、主に脂肪組織に浸潤するマクロファージが産生していることが明らかとなった。さらに、そのマクロファージは二種類に分かれ、一方はM1マクロファージ、もう一方はM2マクロファージと呼ばれる。M1マクロファージはTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの放出量が多く、M2マクロファージは抗炎症性サイトカインであるIL-10の放出量が多いとのこと。実験では、肥満でないマウスの内臓脂肪にはM2マクロファージが多く、高脂肪食を与えて肥満化させたマウス内臓脂肪ではM1マクロファージが優位になったという報告がある。どうやら、インスリン抵抗性という観点からマクロファージにも善玉と悪玉が存在し、M2マクロファージは善玉ということになるのかもしれない。

 糖尿病の項ではさらっと流したが、実は脂肪組織=炎症組織である。肥満の内臓脂肪は大きな体積を占めるから、それが同時に炎症の場であるとすると、相当量のサイトカインが内臓脂肪から出ていることになる。多くの疾患は炎症との関連から見直されてきているから、肥満が多くの疾患の発症の有力なリスク因子になることは容易に想像出来る。

参考文献:

1 Chaffee BW1, Weston SJ. Association between chronic periodontal disease and obesity: a systematic review and meta-analysis. J Periodontol. 2010 Dec;81(12):1708-24. doi: 10.1902/jop.2010.100321. Epub 2010 Aug 19.

2 薄井 勲. 2型糖尿病のインスリン抵抗性における炎症の役割.

歯周病と糖尿病(3)~歯周病はなぜ糖尿病に影響を及ぼすのか?~

 昨日、歯周病局所から放出される炎症性サイトカインが、血流に乗って多臓器に運ばれ、インスリン標的細胞のインスリンシグナルを阻害する分子メカニズムをシンプルに書いた。しかし、これはあまりにもシンプル過ぎる。当然のことではあるが、歯周病にしろ、糖尿病にしろ、疾患の病態が分子レベルで完全に解明されているわけでない。なぜ、「糖尿病が起るのか」という本質的疑問に対して分子レベルで解明するために、日夜、基礎研究が精力的に継続されている。したがって、正確にいうと、「現時点の糖尿病発症の分子機構に照らしあわせて歯周病が糖尿病に与える影響の分子機構を考慮するならば」と断るべきではあるが、歯周病が糖尿病の悪化因子として着目されるのには、もう少し深い道理がある。

 まず、インスリンがそのレセプタ―を介して、いかにGLUT4によるグルコースの細胞内取り込みをコントロールしているかについて説明しよう。

 先ず、インスリンのレセプターへの結合により、レセプターに内在するチロシンキナーゼが活性化され,自己リン酸化される。次に、そのリン酸化チロシンにインスリンレセプター基質1(IRS-1)が結合し,このIRS-1がチロシンリン酸化される。リン酸化されたIRS1はホスファチジルイノシトール(PI)-3-キナーゼ(PI-3kinase)に結合し活性化され、活性化されたPI-3キナーゼはさらにプロテインキナーゼB(PKB)を細胞膜に引き寄せを活性化する。この活性化されたPKBはグルコース輸送体4(GLUT4)を細胞膜に移動させグルコースを細胞内に取り込み、同時にグリコーゲンシンターゼキナーゼ3を不活化し,グリコーゲンシンターゼを活性化することにより肝臓でのグリコーゲン合成を促進する。かくして血糖値は下がる。文章化するとこんな具合だ。

 さて、一般的には肥満脂肪組織が多く産生していると考えられている炎症性サイトカインは、このインスリンシグナルのどこに関わって、結果としてインスリンシグナルを抑制するのか?

 最も支持されているメカニズムは、アディポカイン(脂肪細胞によって産生されるサイトカイン)によって活性化されたJNK(Jun N-Terminal kinase)がIRS1(insulin receptor substrate-1)等のインスリン受容体基質のセリンリン酸残基をリン酸化し、インスリン受容体によるチロシンリン酸化阻害するというものだ。また、IL-6,TNF-α,レジスチンなどのアディポカインや高インスリン血症によっても発現が誘導されるSOCS(Suppressor of cytokine signaling)がセリンリン酸化したIRS-1の分解に関与することが確認されている。

 すなわち、炎症性サイカインがインスリンシグナルを阻害しているポイントは、IRS-1ということになる。そして、炎症性サイトカインは、当然のことながら歯周病局所からだけでなく、メジャーな出所は脂肪組織だろう。要するに、糖尿病は慢性炎症と深いかかわりがあり、歯周病もその慢性炎症の一つである、ということだ。さらにいえば、糖尿病においてインスリン抵抗性が発生するのは炎症性サイトカインがそれを引き起こしている、という理解が重要だ。糖尿病の病態は炎症だ。だから、炎症の有様をモデュレートする「炎症性サイトカイン」は糖尿病をモデュレートするわけなのだ。

 というわけで、炎症性サイトカインの放出は脂肪組織の専売特許ではなく、歯周病を病んだ歯周組織からもボンボン出てまっせ、だから未治療の歯周病を野放しにしておくことは糖尿病にとってまずいんだ、という理解でよいだろう。

 参考文献:植木浩二郎. 慢性炎症の視点から見た2型糖尿病の成因. 糖尿病54(7):469-479.2011.

 

 

歯周病と糖尿病(2)~歯周病はなぜ糖尿病に影響を及ぼすのか?~

 歯周病の存在がなぜ糖尿病にマイナスも影響を及ぼすか、その分子レベルの一般的説明としては、現時点では以下のようになる。

 歯周病が発生している局所では、炎症に引き続き免疫応答が生じる。この免疫応答に参加する免疫担当細胞からはTNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインが多量に放出されてくる。この炎症性サイトカインは、インスリンがその標的細胞のレセプターに結合してシグナルを細胞内に伝達し、細胞外のグルコースを細胞内に取り込ませるためのシグナル伝達を阻害する。(炎症性サイトカインがインスリンシグナルを阻害する分子機構については、後日説明する。)つまりインスリンの標的細胞にインスリン抵抗性を生じさせるというわけだ。

 以上が、キモの部分だ。

   また、「歯周病からサイトカインが出てくる」といったって、歯茎の一部の病気に過ぎない歯周病からのサイトカインがどれくらい多臓器に影響力を及ぼす能力があるのか疑問に思う向きには、口腔内の歯周ポケット内面の表面積の総和は結構大きな面積であり、およそ手のひらサイズに相当することより、手のひら全体に潰瘍が存在したらそりゃ多臓器にも影響が及ぶでしょ、という論理で説明されている。

 

 

参考文献

1 築山鉄平.宮本貴成.  歯科医療のイノベーションを考える. the Quintessence. Vol.36 No.118-141.2017

 

歯周病と糖尿病(1)

 昨日、歯周病と全身のセミナーに参加する機会があったので、今日は歯周病と全身疾患のテーマでいこう。まずは糖尿病だ。

 糖尿病は高血糖を起こす代謝異常疾患で、様々な合併症を引き起こすところが厄介だ。その合併症には心血管疾患や失明など、重大な物が含まれているので、糖尿病を甘く見てはいけない。長生きをしたかったら、糖尿病になってはならない。合併症で寿命を縮めてしまう。センテナリアンには、糖尿病と動脈硬化はほとんどないそうだ。だから、長生きしたい奴は絶対に糖尿病になってはいけない。僕も糖尿病になってはいけない。長生きしたいからな。でも、血糖値が少し高めなんだよううう~。だから、糖尿病の知識は真剣にとりいれるぞ。そして、生活習慣の改善で、血糖値を正常化するぞ。真剣にとりくめば必ずできる。疾患を予防したければ、その病態を理解することだ。そうすれば必ず改善できるはずだ。まずは、歯科医師にとってなじみの深い歯周病とリンクさせて、知識をブラッシュアップだ。

 厚生労働省の平成24年の調査では、糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)は約950万人、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)は約1,100万人と推計されている。糖尿病が強く疑われる者と糖尿病の可能性を否定できない者を合わせると約2,050万人だ。日本人口の16%だ。

 一方、歯周病は、平成23年歯科疾患実態調査によると、日本人の約70%に何らかの歯周病の症状が認められ、軽度の歯肉炎まで含めると成人の80%が様々の病態の歯周病に罹患していることが報告されている。これってもの凄い数字だ。なぜ、凄いかというと、歯周病は糖尿病や心血管疾患をはじめ、多くの全身疾患に悪影響を及ぼす可能性があるからだ。だから、歯周病と全身疾患との関係性についてしっかり学ぶことは大いに意義があるのだ。

 さて、糖尿病に戻るが、糖尿病は1型と2型に大別できる。1型はインスリンを産生する膵臓のβ細胞の破壊によりインスリンを産生出来なる結果、インスリンが欠乏するタイプの糖尿病だ。一方、2型はインスリン産生能は保たれているが、その分泌量が不足していたり、インスリンの指令をうまく細胞核に伝達できないタイプの糖尿病である。

  さて、歯周病と糖尿病は、双方向に影響を及ぼしあうといわれている。つまり、糖尿病の存在は歯周病の進行を早め、同時に、歯周病の存在は糖尿病を悪化させるという関係がある。

 糖尿病が歯周病を悪化させることは周知の事実だ。一方、歯周病が糖尿病に与える影響に関しては、多くのシステマティックレビューとメタアナリシスがあり、歯周病の治療を行うことにより、HbA1cが改善することは間違いないようだ(2)。

 

参考文献:

(1)厚生労働省HP

(2)Borgnakke WS, Yl€ostalo PV, Taylor GW, Genco RJ. Effect of periodontal disease on diabetes: systematic review of epidemiologic observational evidence. J Clin Periodontol 2013; 40 (Suppl. 14): S135–S152. doi: 10.1111/jcpe.12080.

 

よく咬める咬合面形態について(2)

 前回に引き続き、よく咬める第一大臼歯の咬合面とはどういった形をしているべきか?について考えてみよう。

 その前に、なぜ第一大臼歯なのか?だが、咬むパワーは第一大臼歯が最強だからだ。親知らずを除いた成人の永久歯列は上下で28本、片顎で14本の歯で構成されている(前歯6本、小臼歯4本、大臼歯4本)が、食物を粉砕圧搾する能力は、第一大臼歯が最も高いことが知られている。だから、第一大臼歯なのだ。

 ところで、第一大臼歯の咬合面は、機能咬頭と非機能咬頭に区別される。そして、機能咬頭は食物を粉砕し、非機能咬頭は食物が粉砕されるための保持の役割を受け持つ。そして、機能咬頭とは上顎口蓋側咬頭と下顎頬側咬頭であり、非機能咬頭は上顎頬側咬頭と下顎舌側咬頭なのである(図1)。

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 食物が潰されるためには、口を開けて下顎を下方に移動させ、最下方に達したら今度は、口を閉じて下顎を上顎に向けて上方に移動させ、最終的に下顎の歯を上顎の歯に打ちつけなければならない。この一連の下顎運動を咀嚼サイクルといい、前頭断面で観察した場合、不定形の涙滴状の形態をしており、開口路と閉口路は一致しない(図2)。

 上図の赤線部で食物を”ぐちゃっ”と咬み潰すためには、食物がそのエリアにとどまる必要がある。そのためには上下の歯が咬み合った時に食物が逃げないような閉塞空間が存在しなければならない。その閉塞空間は、”圧搾空間”呼ばれてており、それを構成する壁は、上顎第一大臼歯の近心頬側咬頭内斜面、近心口蓋側咬頭内斜面、および斜走隆線からなる。また、側方滑走運動運動から終末位の咬頭嵌合位にはまり込んでいく際、食物は閉塞空間に追い込まれるが、近心口蓋側方向のみに解放された空間が出現する。この開放された空間は食片の遁路であり、圧搾された食片は、近心口蓋側方向に流れて歯面から口腔内に流れ落ちていくと考えられる(図4)。

201712917335.jpg  図4は文献(2)より引用

 以上の事実から、「よく咬める咬合面形態とは?」の回答として結論づけられることは、上記の「圧搾空間を確実に出現させる」咬合面、ということになる。そして、その圧搾空間を確実に出現させる具体的なポイントとは、1)上顎の頬側咬頭が下顎の頬側咬頭を十分に被蓋していること、2)下顎歯列の咬頭が上顎の窩にきちんと嵌合していること、つまり正確な咬頭嵌合を再現していること、に他ならない。

参考文献:

(1)中村健太郎.なぜ第一大臼歯を保存しなければならないのか? the Quintessence. Vol.35. No.6. 50-54.2016. 

(2)渡辺淳史.側方滑走運動による上下大臼歯間の接触間隙の変化.補綴誌.39.517-529.1995.

 

 

セラミック冠が推奨される一番の理由とは

 歯冠修復治療において、オールセラミック冠は、金属冠や金属焼き付けポーセレン冠を抑えて第一選択の座を占める勢いで普及してきている。確かに、セラミック冠は金属冠に比較して優れた特徴を持っている。たとえば、表面が滑沢故にプラークが付きにくい、金属色でなく白い歯が入る、金属アレルギーが起らない、などである。これらは、真実なので、確かにセラミック冠の優位性を示す根拠ではある。

 しかし、僕がセラミック冠を推奨する一番の理由は他にある。それは、マージンの位置を歯肉縁上に設定できる点だ。マージンの位置に関しては、歯肉縁より上に置く、歯肉縁に一致させる、歯肉縁より下に置く、の3通りの方法がある。このうち、歯周病の管理面からは、歯肉縁より上のマージンが絶対に良い。プラークコントロールをし易いからだ。それを裏付けるエビデンスはいくらでもある。マージンを歯肉縁上に設定した方が長期的に歯周病に罹患しにくいのだ(1)。

 マージンは歯肉縁上に設定する方が絶対に歯周病を管理しやすいのだが、問題は金属焼き付けポーセレンなどの金属をフレームに使用するタイプの修復物はマージンがブラックになるので、前歯部では歯肉縁上に設定しにくいことだ。してもよいが、決して審美的な結果にはならない。ところが、オールセラミック冠では、マージンが歯質と同様の色であるゆえに、歯肉縁上にマージンを設定しても目立たない。ゆえに平気でマージンを歯肉縁上に設定できるわけだ。これは、歯周病にならないように管理する上で、絶大なアドバンテージだと思う。この点で、セラミック冠はメタルを使用する歯冠修復物よりも優れており、これこそがセラミック冠をお勧めする一番の理由なのだ。特に、生活歯の場合、セラミックの歯肉縁上のマージンは全く目立たず、ベストだ。

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左上④5⑥ブリッジはセラミックブリッジゆえ、マージンは縁上に設定しているにも関わらず、目立たない。一方。左上2はセラミック冠でないため、マージン部がブラックである。

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右上3~左上3は歯周治療後、レジン前装冠を装着している。歯周病はきれいに治っているが、マージンが縁上のため、レジン前装冠のマージンはブラックとなっている。

 

参考文献:

(1)Jansson L, Blomster S, Forsgårdh A, Bergman E, Berglund E, Foss L, Reinhardt EL, Sjöberg B. Interactory effect between marginal plaque and subgingival proximal restorations on periodontal pocket depth. Swed Dent J. 1997;21(3):77-83.

 

 

認知症に歯科が貢献できる理由

  昨日、認知症患者さんの歯科治療は容易ではない、と書いた。もちろん、歯科治療の介入は認知症患者さんの生活の質を高めることに貢献できると思う。しかし、認知症のステージと歯科の貢献能力の関係を考えてみると、進んでしまった認知症患者さんの口腔機能の回復という貢献に比較して、認知症の進行を抑制したり、認知症を予防したりする貢献の方が、はるかにその度合いが高いと思う。つまり、歯科治療は、認知症を予防できるのだ。

 よく咬める状態を保つことで、認知症の発症頻度を下げることができるエビデンスはある。2つのコホート研究を参照してほしい。たとえ、歯周病で歯を失ったとしても、きちんと適合した義歯を作製して、それを使用していれば、使用しない場合に比べて、はるかに認知症になりにくいのだ。

 この点は重要だ。超高齢社会を迎えて、われわれ歯科医師は国民の認知症予防に貢献できるということは、素晴らしい。歯科医療に大きなやりがいを感じずにはいられない。

 われわれ歯科医師が国民の認知症予防に貢献できるためには、ポイントは二つあると思う。その一つは、よい口腔機能を保つことの重要性、わかりやすく言えば、歯科治療でよく咬めるようにすることで認知症の発症率を下げることができる事実を、国民にあまねく知らせることだろう。国民に知ってもらわなければ、われわれは力を発揮できない。

 二つ目のポイントは、歯を失ってから義歯で機能回復を図るのでなく、やはり歯を失わないように予防に力点を置くことだ。これは政策レベルでも、歯科医院レベルでもそうだ。歯科衛生士の能力を最大限に発揮してもらい、国民の認知症発症をストップさせること。これは重要だ。

 僕は、当面、こういったスタンスで、治療だけでなく、齲蝕や歯周病の予防を重視した臨床を展開したい、と思っている。

認知症高齢者に歯科医師として出来ること

  平成28年版高齢社会白書は、二宮利治教授(九大)らの研究を引用し、平成24年には高齢者の7人に1人が認知症であったものが、平成37年には5人に1人になるとの見通しを示している。こういった社会の到来を、僕らはどうとらえたらいいのだろう?また、歯科医師としてどう対処したらいいのだろう?今日はそういったテーマで考えたい。

  認知症患者の歯科治療は容易でないだろう。先ず、コミニュケーションがとりづらいだろうし、本人が歯科治療の介入を拒むこともあり得るからだ。しかし、それでも認知症患者の歯科治療は重要である。なぜなら、現時点で認知症の有効な治療法は確立していないので、認知症は予防が肝要だからだ。また、低栄養が認知症の発症や進行を促すことはよく知られている。よって、歯科医療が認知症予備軍の方々の口腔機能の維持、向上に介入することで、認知症の発症を予防したり、初期の病状の進行を抑えたりすることが可能と思われるからだ。われわれ歯科医師の責務はとても重大で、かつやりがいがあると思う。

 しかし、言うは易し、行うは難しだ。現時点で、歯科医療者側は有効な対処の手立てをもっていないといっていい。だから、認知症患者向けの接遇技術の修得は、とても大切にとらえたい。

 今日のテーマは重いものだが、歯科医療従事者にとっては極めて重大なテーマだ。真剣に考えることで、歯科の未来が開けるだろう。少なくとも歯科医師である僕の未来は明るいと思うのだ。

参考文献:服部佳功.認知症高齢者に対する歯科医療のあり方を考える. the Quintessence.Vol.36. No.1. 41-42.2017

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