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2017年1月

歯周組織とインプラント周囲組織との違い(3)

 今日は元旦だが、ブログの内容はいつも通りだ。インプラント周囲組織と天然歯歯周組織との違いを理解することで、インプラント独特の管理上の注意点をしっかり認識するところに至りたい。

 先ず、復習だが、天然歯周りの歯肉は、辺縁から歯槽頂まで歯とどのように接触しているかで、ざっくりと、1)歯肉溝上皮 2)付着上皮 3)上皮下結合組織 の3つのゾーンに区別される。挿入図を見てもらえばわかるが、歯肉溝上皮はポケットの内縁上皮だから全く歯と接触していない(A)。付着上皮は、ヘミデスモゾームという組織学的に確認できる接着機構を介してエナメル質と接着している。この接着はあまり強固ではない。一応、くっついてる程度のしょぼい接着であり、結合と呼ぶほどのものではない(B)。しっかりと結合しているのは、Cの上皮下結合織だ。この部分は歯肉内を横断するように歯肉内に存在する結合組織線維がセメント質表面に水平的に入り込んでいるのと同時に、歯槽骨骨膜からも結合組織線維がセメント質まで垂直的に入り込んでおり、両者がからみあうようにしっかりと結合している(C)。こういったふうに、BとCの歯肉が(特にCが)歯としっかりと結合してくれているおかげで、歯と粘膜の微細な隙間から細菌や異物が体内に侵入しないようになってる。

 

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  文献(2)より引用.

 さて、インプラントの周囲歯肉はどうなっているのか?インプラント周囲歯肉も、基本的には天然歯同様、「インプラント周囲溝上皮」「インプラント付着上皮」「インプラント周囲結合組織」の3つのゾーンに区別できる。このうちインプラント周囲溝上皮は、インプラントと接触していないので何のバリアー機能も果たさないのは天然歯同様だ。バリアーの役割が期待できるのは、「インプラント付着上皮」「インプラント周囲結合組織」だが、インプラント付着上皮にはチタン表面と接着タンパク(ヘミデスモゾーム)を介した接着が見られるものの、天然歯のそれより少ないことがわかっている。歯肉が接着タンパクを介してチタン表面とくっついてくれていたら、シーリングが期待できるのだが、インプラントではあまり期待できないということだ。また、天然歯では圧倒的に強固な結合織の結合がみられるCゾーンだが、インプラントでは結合織繊維は金属の中に入っていかない。つまり、天然歯では認められる歯~歯肉線維、歯~骨膜繊維に相当する結合織付着がないのだ。これは、インプラントの周囲歯肉のバリアー機能は、天然歯のそれよりも劣っていることを示す。このことは、インプラント周囲炎の骨吸収形態が、決まってきれいにクレーター状に認められることからも、インプラント周囲歯肉の結合織のバリアー機能が低いことがうなずける。

 したがって、インプラント治療は、補綴物が入った後の維持管理からが本番といえるだろう。インプラントを行う歯科医師は、この点を再認識しなければならない。

参考文献:

(1 )三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

(2)橋本 貞充.「歯周組織の構造と防御機構を再考する」マクロとミクロの視点からみる歯周組織の構造と機能.

      Osaka Academy of Oral Impantology. Vol.29.2-12.2015.

 

 

 

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