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2017年1月

咬合性外傷は歯周組織の破壊を起こすか?

 歯周病を引き起こす直接の原因は歯周病菌の感染であり、咬合性外傷は細菌感染により引き起こされた炎症を修飾する、という理解が一般的だ。正確なことをいえば、咬合性外傷と歯周病との関連性は完全に解明されているわけではない。

 咬合性外傷が歯周組織の破壊をもたらす可能性を示唆したのは、Glickmanの共同破壊説が発端となっている。これは、歯周炎の存在する歯に外傷的な力が及ぶと、プラークに起因する炎症の波及方向に変化が起り、垂直性骨欠損を生じるとするものだ。しかしながら、現代では、動物実験のデータにより、外傷が炎症の波及方向に影響を及ぼすことは否定されている。歯にジグリングフォースをかけると、根尖部および辺縁骨部の歯周靭帯で血管数の増加、血管壁の透過性の増大、コラーゲン線維のリモデリング、歯槽骨吸収などが起るが、骨縁上の結合組織には影響を与えず、歯周病の進行を加速することはなかった、とする報告がある。

 すなわち、咬合性外傷が歯周病の進行を加速する、というエビデンスはないということだ。歯周病の進行を止めるための第一にすべきことは、あくまでも感染の制御である、ということになる。

参考文献:大月基弘.歯周病から第一大臼歯の喪失を防ぐにはー具体的な分岐部病変の治療ー.the Quintessense.Vol.35 No.12,117-124.2016.

 

原因のはっきりしない根分岐部病変

 臨床において、時によくわからないことが起る。たとえば、2か月前には異常なかったのに、これといったきっかけが見当たらないにもかかわらず、急激に根分岐部病変が起ったりする。原因は必ずある。しかし、現時点で特定できないのだ。咬合性外傷?最近、歯冠修復や保存修復治療は行っていないので、特に咬合に変化が起る要因はないのに?なぜだ?歯根破折?デンタルでフラクチャーは確認できない。なぜ、分岐部に急に炎症が発生する?歯髄炎?おそらく歯髄はバイタルだ。なにが、かくも急激な分岐部の骨吸収を加速させる?なにが原因なのだ?ストレス?クレンチング?ブラキシズム?う~む。???

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昨年11月2日のデンタル

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昨年12月27日のデンタル。著明な分岐部の骨吸収を認める。

 

易と人生哲学

 成人の日の昼下がり、細君が浮かぬ顔をしている。どうやら、2017年の「高島易断」の本を読んでいたようだ。その本には、今年の私の運勢が良くないようなことが書かれていたらしい。それで不安になった。「今年に家屋の増改築を行うのは凶」と書いていたとのこと。なあるほど。当院は現在、二階を改築中だからだ。

 高島易断のような、いわゆる今年の運勢の類のような占いに関する私のスタンスをいえば、私は占いをあまり信じていない。えらそうなことをいえば、運命とは自らの努力で創り出すもの、という考えがあるからだ。以前、読んだことのある安岡正篤著「易と人生哲学」の中に同様の趣旨で、「易に通ずるものは占わず」というようなことを書いていたように記憶していたので、今日はその本を取り出し、あらためて読み直した。とても含蓄のある内容なので、ここにその抜粋を記す。

 「多くの人々は、易というものは、人間の運命に関する学問であり、その運命とは、宿命であると誤解しております。宿ーとどまるという意味ですから進歩がありません。運ーめぐるですから動いてやまないものをいいます。つまり、宿命と運命とを取り違えております。

 本当の運命は文字どおり創造していくことであります。この宿命に対して命を立てる、命を開くことを立命と申します。だから本当の運命は宿命でなく、立命でなければなりません。いかに自ら運命を立てていくか、ということが本当の運命の学、すなわち易学であります。だから、易学というものは定められたその関係を調べるのではなく、どこまでも自分の存在、自分の生命、生活というものを創造していく学問であります。

 それにはやはり命というものを、あきらかにしなければなりません。その命の中に因となり果となっていろいろと創造が行われます。その複雑微妙な因果の関係を「数」といいます。そこで易を学ぶということは、われわれの動いてやまない運命の中に含まれている命数、運命の複雑微妙な創造関係、因果関係というものをあきらかにして、運命に乗じて、これを再創造していく、運命に乗じて運命を自ら作っていく学問であります。そこで、易を学べば学ぶほど、自分で自分の存在、自分の活動、そして自分の運命を拓いていくことが出来るのであります。----------中略----------易といえば占うものだと考えておるのは、それはまだ易学を知っておらぬからでありまして、本当に易学を知れば、占うということはいらなくなります。自分で判断して自分で決定が出来ます。」

 どうです。かなり勇気づけられる文章ではないですか。生きるって、こういう心持ちで生きていくことをいうのではないでしょうか。

参考図書:安岡正篤. 易と人生哲学. 致知出版.東京.1986.

 

歯周治療における細菌検査の意義

 歯周炎は感染症だ。その原因菌は歯周病現菌である。その中でも強力な歯周病菌はPorphiromonas gingivalis, Treponema denticola, Tannerella Forsythiaだ。この3菌種はレッドコンプレックスと呼ばれている。しかし、レッドコンプレックスに感染していないものの、それ以外の弱い病原性しか持たない歯周病菌も存在しており、不潔にしていたためにこれらのの弱い病原性により引き起こされた歯周炎を「不潔性歯周炎」と呼んで、レッドコンプレックスによる歯周炎と区別している。レッドコンプレックスによる歯周炎は質が悪く治療に抵抗しがちだが、非レッドコンプレックス菌による不潔性歯周炎は質が良く、治療によく反応するからだ。

  そこで、歯周炎の原因菌が、レッドコンプレックの感染か、非レッドコンプレックスの感染かを知ることで、治療の予後や今後のリスクを判断することが出来る。

 細菌検査の意義は歯周炎の程度を図るためではない。程度は出血の有無で十分判断できる。なぜなら、レッドコンプレックスの細菌は、その増殖に鉄分を必要とするが、それを血液中のヘム鉄から採取している。つまり、歯周ポケット粘膜内面に潰瘍が形成されると出血してPorphiromonas gingivalisを勢いづかせるが、一旦活動を活性化させたPorphiromonas gingivalisは粘膜上皮細胞内に侵入し、上皮の修復を行う上皮細胞の増殖を邪魔する物質を出して出血を長引かせる。つまり、出血が起っている部位には活発に活動中のPorphiromonas gingivalisがわんさかうごめいていると考えてよい。だから、炎症の程度を知るための細菌検査は必要ない。

 細菌検査の意義は、歯周炎の診断とリスクを判断するために行う。なかでもPorphiromonas gingivalisが起炎菌として存在しているか、否かは重要な情報だ。こいつが存在している場合は、手ごわい相手と認識して,心して戦いをいどまなければならないのだ。

参考文献:天野敦雄. 21世紀の科学でペリオを診る.Osaka Academy of Oral Implantology. 第29号. 13-18.(2014.4.1~2015.3.31)

 

インプラント上部冠脱離はインプラント周囲組織チェックの恰好のタイミング

 先日、インプラント治療終了後のメインテナンス時の経過観察におけるチェック項目について書いたばかりだが、今日はインプラント上部冠が脱離した患者さんがお見えになり、インプラント周囲組織の良い経過観察の機会となった。インプラント上部冠を仮着セメントでとめたケースだが、仮着セメントでとめると時々取れる(今回4年ぶりだが)。取れた時が、インプラント周囲組織の経過観察の格好のチャンスだ。かぶせた冠がないと、本当によく見え、プロービングも正確に出来るからだ。

 

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脱離したセラモメタル冠の粘膜付近表面のプラーク付着は極めて少量だった。プラークコントロールは優秀だ。

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インプラント周囲ポケットはどの部位も2mm以内だった。頬側にはわずかだが付着歯肉のゾーン(1~2mm程度)が存在しており、通常通りのブラッシングが可能となっている。それでもプロービングすると、ごくわずかに出血する箇所が見られた。

 

 

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これは4年前に上部冠を装着した時のデンタルX線写真だ。上部冠を乗せるアバットメントと冠マージン部はスムーズなスロープで移行しており、清掃ツールのアクセスが容易な環境が確保できている。インプラントはアストラテック。

 

 

 

 

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これは、今回受診の直近のメンテ時に撮影したデンタルX線写真だ。注目してほしいのは、マージナルボーンロスが全く見られないところだ。手前の天然歯遠心は若干、垂直性骨吸収が見られるが、インプラント周囲には認められない。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

歯周炎は完治しない?

 21世紀の歯科医療の話をしよう。現在では、歯周炎に罹患した歯周組織を歯周基本治療や外科手術で臨床症状をとり除くことは十分可能だ。一旦良い状態に戻した後、PMTCを継続的に行うことで再発を防止することもかなりの高い確率で可能だ。では、PMTCさえ継続していれば絶対に歯周炎は再発しないのだろうか?残念ながら答えはノーだ。確率の問題だが、再発率を下げることはできても、ゼロには出来ない。

 このことは残念ではあるが、21世紀になって歯周炎の病因が明らかとなっている現時点では、そういわざるを得ない。

 その一番目の理由は、歯周病菌はしたたかな戦略を持ってしつこく生き延びる能力をもっているから。バイオフィルムという強固な粘着性の膜の下で、歯周病菌は互いに協力し合いながら生き延びるのである。バイオフィルムは細菌が自ら産生する菌体外多糖体で、非常に強固なバリアーとして細菌に味方する、いわば核から身を守るシェルターのようなものだ。このシェルターはドン食細胞や抗体は無論、抗生剤も、消毒剤も、通過できない。Red complexと呼ばれる強力な歯周病菌トリオ(Porphiromonas gingivalis, Treponema denticola, Tannerella forsythia)は、このバイオフィルムの庇護の下、ぬくぬくと生き続けるのだ。しかも、棲息に必要な栄養素や、遺伝情報は互いにシェアするという仲間同士の助け合い精神まで伴って!憎らしい奴らだ。

 その二番目の理由は、Porphiromonas gingivalisは、歯肉の細胞内にまで侵入する能力を持つことだ。歯周病菌は、歯周組織の上皮細胞、線維芽細胞、頬粘膜細胞からも検出され、さらに生きた菌の検出も報告されている。歯周病菌が細胞内に逃げ込む細菌側のメリットは、抗体やマクロファージからの攻撃から身をかわせること、適度な温度と水分、棲息に快適な嫌気的環境、およぼ宿主細胞から栄養を享受できることだ。実に嫌らしいではないか。こういった卑劣な手段を使って、歯周病菌は生体の攻撃から身を守り、生き続けるのである。ちなみに歯周病菌同士のコミュニティー外の一般細菌に対しては、これを排除したりまでする。

 このような理由により、現在の歯周病治療の手段では、歯周病菌を完全には駆逐できない。原因菌を駆逐できないと言うことは、歯周炎は完治できないということだ。つまり、再発の可能性を残すということ。では、このことをもって、歯科医学は無力と決めつけられるのだろうか?そうではないと思う。

 たとえば、最も一般的な感染症である”風邪”を引いたとして、風邪薬を飲んだり、生活面で養生したりして、症状がとれたとしよう。今回の風邪はこれで終息だ。治癒だ。しかし、だれも未来永劫に風邪を引かない体になったとは思わないだろう。一般の風邪の原因はウイルスだから、生涯獲得された免疫機構などはなく、体の外から再度ウイルスが体の中に入ってくれば、運悪く体調が悪ければ再び風邪をひく。しかし、これを医学の敗北とはいわないだろう。歯周炎もこれと似ている。原因菌は常在菌だからたえず歯周ポケット内部に潜んでいる。体調が悪かったり、たまたまプラークの量が普段より少々増えたりすると再発するのだ。だからと言って、歯周治療やメインテナンスが無力ではない。両者は臨床症状の発現を抑え込むことに大きく貢献している。疾患の再発率をゼロにできないからと言って、その治療を無力と決めつけることはできないと思うのだ。

 

参考文献:天野雄. 21世紀の科学でペリオを診る.Osaka Academy of Oral Implantology. 第29号. 13-18.(2014.4.1~2015.3.31)

 

PMTCと歯科衛生士

 昨日、PMTCを担当するものは歯科衛生士に限らないことを書いた。歯科医師が行って一向にかまわない。技術的には、もともと歯科医師はこだわって技術を追求する性向が備わっているので、徹底的に技術を追求すると歯科医師の方がよりマニアックなまでの専門的な技術域まで到達するかもしれない。それにもかかわらず、歯科衛生士がPMTCを担当するメリットがあるに違いない。今日は、歯科医師ではなく、歯科衛生士がPMTCを担当するメリットについて考えたい。

 「PMTC2」の著者 内山茂先生は、その著書内の「コラム」において大変興味深いことを書いておられる。「五木寛之氏の受け売りですが、”慈悲”という言葉は仏教用語だそうで、”慈”とは大いなる父親の愛情のようなもの。”さあ、そんなにくよくよしないで立ち上がって、いっしょにあの山の頂を目指して歩いて行こう、頑張れ”と激励してくれる、厳しいなかにも慈(いつく)しみのある愛情でしょうか。一方、”悲”というものは、思わず知らず体の奥からもれてくる、深いため息、たとえば悲しみのどん底に打ちひしがれている人を見たときや、悲嘆の極みにいる人のそばに自分がいるときに、「ああ、人間というものは何と不条理なものだろうか」と深いため息をつく。それは深い人間の連帯感から発するもので、母親の愛情のようなもの。”慈”は知恵、”悲”は情感と言い換えることもできて、この両方があってはじめて”慈悲”になるというのです。ところが、現代社会は、えてして”慈”のもつ知性や合理性のほうが大切にされて、”悲”の部分、つまり涙とか悲しみをプリミティブなものとして馬鹿にする傾向があるようです。-----中略-----"悲"を軽んずる傾向は、私たち歯科の分野でも大いに当てはまります。たとえば、診療室に超・重症な歯周病の患者さんが来院したとします。-----中略-----まずはTBI、動機づけがうまくいったら何本かの歯はホープレスだから抜歯、スケーリング、ルートプレーニング、初期治療、再評価、外科処置、そして欠損補綴へ。「----さん、これからも頑張ろうね」。一見、歯科医師として当然の行為ですが、実は仕事に追われて、慣れ切って、患者さんといっしょに涙する余裕なんかないのです。でも悲しいかな、それが宿命。-----中略-----考えてみてください、なぜ歯科衛生士学校に”戴帽式”があるのか?私の思い込みかもしれませんが、ナースキャップをかぶるということは、つまり看護の精神(ナーシングスピリット)を持つということではないでしょうか?歯科における看護とは?それは手遅れの患者さんに、精神的な援助と病気に立ち向かうための気力を提供することです。この場合の手遅れとは、ホープレス→抜歯を意味しています。-----中略-----”治療”が患者さんのもっている病気(疾患)に対する行為であるとしたら、”看護”は病気を持っている人(患者さん)が対照です。”歯科医療における看護”とは聞きなれない言葉ですが、これからの歯科衛生士さんたちには、是非、この心をもってもらいたいと思っています。」

 PMTCを歯科衛生士が担当するメリットとは?の答えがここにある。歯科医師は、たとえPMTCを完璧に行うテクニックは身につけているとしても、患者と一緒に泣くということは出来ない。ところが歯科衛生士は患者の不幸を、患者と共に嘆き、泣くことが出来る。この違いなのだ。もちろん、実際に泣いてしまうことは出来ないが、患者さんの心の痛みを一緒に感じて共感することは歯科衛生士だからこそ表に出して表現することが可能だ。歯科医師は、患者の前では冷静に行動することを職業的に訓練されている。だから、歯科衛生士が患者と交わすトークは、世間話に終始する美容サロンのそれとは一線を画すのだ。歯科衛生士のトークには患者の痛みを感じることが出来るハートがあるのである。そこらへんが、歯科衛生士がケアを担当するメリットだろう。

参考文献:内山 茂、波多野映子著. 歯界展望MOOK PMTC2.  医歯薬出版.東京.2003.

 

PMTCってなんだ?

 これまでPMTCとは、歯科衛生士が担当するものと思い込んでいた。PMTCとは、Professional Mechanical Tooth Cleaning の略号で、直訳すると専門的機械的歯面清掃だ。この用語は予防歯科の世界的権威であるスゥエーデンのAxelsson  P.教授により初めて用いられた。彼のオリジナルな見解では、PMTCとは、「専門教育を受けた予防歯科看護師、歯科衛生士、歯科医師が選択的にプラーク(歯肉縁上のみならず歯肉縁下1~3mmまで)を、機械的清掃用具とフッ化物配合研磨剤を用いて、すべての歯面から取り除くことであり、いわゆる”予防処置”(ラバーカップと予防ペーストを用いた研磨.おもに頬側、舌側、咬合面などのリスクのない面に対して行われる)と、専門家による機械的歯面清掃(PMTC)を混同してはならない」とされている。しかし、現在の我が国におけるPMTCの定義は、「口腔ケアにともなうさまざまな機材を用いた専門家による歯面清掃すべての総称をPMTCという」が一般的である(1)。

  ここで着目したいのは、Axelsson教授のオリジナルの見解では、PMTCを担当するは口腔の専門家であり、歯科衛生士に限っていないことである。歯科衛生士以外に、歯科看護師および歯科医師が担当してよいことになっている。要するに専門性の高い高度の歯面清掃は、専門職によって行われる必要があるということだ。

 ちなみに、スウェ―デンの歯科医療制度は我が国とは違い、歯科医療を補助するものとして、歯科衛生士、歯科技工士、歯科看護師が存在する。前二者は我が国と同じだが、歯科看護師という職種が存在する。世界の歯科医療制度を紹介した 『日本と世界の歯科医療』 によれば、スゥエーデンでは歯科診療補助者としては歯科衛生士(2,900 名)、歯科技工士(1,348 名)、歯科看護士(約 14,000 名)の職種がある。歯科治療において補助者が働くシステムはスウェーデンでは非常に発達しており、オーラルヘルスケアの多くを歯科診療補助者が行っている。日本と異なり、歯科衛生士は独立して勤務、開業が可能であり、その職務にはう蝕や歯周病の診断等が含まれ、充てん処置や局所麻酔を行うことが認められている。歯科衛生士のうち 600名が民間歯科診療所に雇用さ れ、2,100名が公共の歯科診療施設に勤務し、200名が自ら開業している。歯科衛生士は自らの職務に法的責任を持ち、患者への費用請求が可能である。この診療価格設定費用は、歯科医師のものとは異なっている(2)。

 調べてみると、スゥエーデンにおいてもやはり口腔ケアは歯科衛生士や歯科看護師が主になって担当しているようだ。歯科医師がなぜ行わないかというと、スウェ―デンでは歯科医師の数が少ないことが直接関係しているだろう。わが国でも、歯科医師は根管治療や義歯治療などの一般治療に忙殺され、直接PMTCを行う時間がないことが原因といえる。

 今日、あえて言いたかったことは、PMTCは単なる「おそうじ」ではなく、齲蝕や歯周病の病因である口腔細菌を取り除く、高度の専門性に裏打ちされた医療行為であることを再認識する必要がある、ということだ。そして、齲蝕や歯周病を予防することが国民の健康長寿に直結することが明らかとなった今、歯科医師はそれを歯科衛生士に丸投げするのでなく、PMTCの具体的なテクニックやその効果について自ら研究する義務があると思うのである。そして、たとえ自ら行うことはなくとも、行うことが出来、歯科衛生士に技術指導ができるレベルでなければならないと、自戒を込めて思う。

 

参考文献:

1 内山 茂、波多野映子著. 歯界展望MOOK PMTC2.  医歯薬出版.東京.2003.

2 医療法人社団 星陵会 平 健人. 『日本と世界の歯科医療』 ~国際比較から見た日本の歯科医療の姿~ .

     千代田ファーストビル歯科HP.(www.chiyoda1st.com/iryo.html)

インプラント治療後の経過観察では、何に着目するのか?そして、何をするべきか?

 インプラント治療が完了してからあと、どのような点に着目する必要があるのか?というテーマで書こう。

 インプラントが埋入されている口腔のメインテナンスにおいて、着目する点はインプラント周囲病変が起っていないか、どうかのチェックだ。インプラント周囲組織はバリアーとしては脆弱なので、インプラント周囲の感染リスクは、天然歯以上に高い。

 具体的なチェック項目として、1)インプラント周囲のプロービングデプス 2)プロービング時の出血 3)排膿の有無 4)インプラントの動揺度 5)デンタルX線写真撮影により骨吸収の確認 6)プラーク付着の有無 7)口腔内写真撮影による観察、が挙げられるだろう。

 インプラント周囲ポケットが深まっており、ポケットからの出血と排膿が伴えば、インプラント周囲骨の吸収を起こしている可能性は極めて高い。

 メインテナンスにおける診査でインプラント周囲炎が認められた場合、直ちにその救済をしなければならない。もし、認められなければ、やることはセルフコントロールの指導、つまりTBIと、プロフェッショナルコントロールのPMTCだ。

 以前は、PMTCはDH(歯科衛生士)に任せていたが、メインテナンスにおけるインプラント周囲炎の早期発見が極めて重要との観点から、最近では、個人的には、PMTCの内容に関心が高まってきているところだ。

 参考文献:三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

インプラント治療にあたる際の心構え

 「インプラント周囲歯肉のバリアー機能は天然歯に劣る」のであるが、それをもってインプラント治療を否定するのは間違いだ。インプラントの咀嚼を支える能力の圧倒的高さを考えると、やはりインプラントは現代の歯科医療が到達した一つの大きな金字塔と思う。どのような医療にも利点と欠点があり、その両者をよく見極めて、最終的には患者さんがチョイスするべき、と思う。少なくとも、もしも自分が何かの原因で(というか、歯周病で歯を失うことは考えにくいので、歯肉縁下カリエスだろう。これは補綴物のマージンが歯肉縁レベル、あるいはそれ以下に設定された場合、起こりうる)、歯を失った場合、間違いなくインプラントをチョイスする。口腔清掃がきちんと行われている患者に、正当な術式で、適切な骨量が確保されており、かつ周囲に付着歯肉が2ミリ以上確保された部位に、信用出来る正規一流メーカーのインプラントが埋入された場合、メインテナンスが適切に行われてさえいれば、長期予後は間違いなくよいと断言できるからだ。部分義歯や天然歯を切削しなければならないブリッジに比較し、圧倒的な優位性がインプラントにはある。

 インプラント周囲炎のリスクファクターには大きく、1)患者の要因 2)局所的要因 3)医原的要因 があるといわれている。「患者の要因」とは、低い口腔衛生状態、隣在歯の歯周病の存在、メインテナンスの欠如、喫煙や糖尿病などの宿主の抵抗力が関連する。「局所的要因」とは、インプラント周囲骨量の不足、周囲角化歯肉の不足、インプラント体の性能などが関連し、「医原的要因」とは、不適切な外科手技、インプラントポジション、補綴デザイン、補綴物の適合不良、装着時の残存セメントなどが関連する。

 インプラント治療にあたる歯科医師は、3)の医原的要因で残念な治療結果が出ないよう、正しい倫理観に基づいて、自己のインプラントに関する知識・技能を常に高める努力を継続する必要があるだろう。万一、当初目指した結果がついてこなかった場合は、リカバリ―のための最大限の努力を払うべきだ。ここが臨床家としての質が問われる正念場だろう。これはとても重要なことで、絶対失敗しないドクターなど、テレビドラマの中にしか存在しない。そして、全例、最後には当初目指した結果を出すのが信頼できる誠実なドクター像と思う。また、1)の患者の要因は、知らされていなければ患者は正しい判断を出来ないわけだから、治療前の面談でしっかりとインプラント治療を受ける際に、患者側が満たしていなければならない条件を知らされなければならないだろう。2)の局所的要因については、歯科医師の力量にかかっているので、骨量や角化歯肉を予め増やすことが出来るのならインプラントをすればよいし、その技術がないのならしないほうが良いだろう。

 とにかく、患者さんにインプラント治療を受ける前に、その治療を受けるのにふさわしい状態になっていただくことがとても重要だ。それには、一にも、二にも、治療前にしっかりと面談に時間をかけ、インプラントのリスクやメインテナンスの重要性などを、しっかり理解していただくことだ。患者利益のために、この高度なインプラント治療を行うこと。このことは、インプラント治療にあたる歯科医師の心構えとして極めて重要だ。

参考文献:

三上 格,下野正基.基礎と臨床からみるインプラント治療後の維持管理. ザ・クインテッセンス. Vol.35. 48-67.2016

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