2016年12月
CO2レーザー照射は埋入後インプラントのオッセオインテグレーションを加速する
炭酸ガスレーザーは、蒸散などのhigh level reactive laser treatment (HLLT)作用と、照射部位における細胞増殖、創傷治癒促進などのlow level reactive laser treatment (LLLT)作用の両方の使い方が可能だ。で、今回のテーマは炭酸ガスレーザーのLLLTの方。
ラットの脛骨に皮膚上から炭酸ガスレーザーを照射し、皮質骨表面の骨形成を促進するという報告がある。そこで、インプラント周囲の骨とインプラントがオッセオインテグレーションを起こす場にレーザーを照射すれば、骨形成を促進することによりオッセオインテグレ―ションが増強するのではないかというアイデアが生まれる。そして、それを実験で確認したレポートがある(1)。
実験の詳細は、ラット脛骨上の皮膚を切開剥離し、骨内にチタンインプラントを埋入後、皮膚を復位縫合する。その後、週3回のペースで炭酸ガスレーザーを皮膚上10cmの距離から一定の条件で照射した後、適当期間経過後に安楽死させ、得られた組織切片を対照群と比較するというもの。その結果、レーザー照射群では、インプラント周囲の新生骨形成量が対照群に比較して多かった。
こういった現象はなぜ起こるのだろう?炭酸ガスレーザーは10.6μmという比較的長い波長で水分への吸収性が高いゆえに、骨内深部のインプラントと骨の界面まではレーザー光は到達しないはずではないか。なのに、なぜ、レーザーはインプラント表面の骨形成に生物学的効果を及ぼすことが出来るのだろうか?
この疑問に対して、この論文内では以下のように推察している。レーザー光線は届いたとしてもせいぜい皮質骨までだろうから、骨深部にあるインプラント周囲の骨形成促進効果は、皮質骨表層にいる細胞が、細胞突起とGap junctionを介して、深部に情報を伝達し、深部の骨形成性細胞を働かせた結果と考えている。その皮質骨表層に存在する細胞とは骨細胞で、骨形成を担当する骨細胞はメカニカルフォースに対するセンサーを持っていると考えられている。レーザー光線の物理学的性質が骨細胞にメカニカルフォースを感知させて、骨深部に存在する骨芽細胞とのネットワークを強化し、骨芽細胞の骨形成を促す可能性が示唆される。
参考文献:
(1)金子友紀.炭酸ガスレーザーがラット脛骨チタンインプラントのオッセオインテグレーションに及ぼす影響.日口腔インプラント誌.25(1). 13-21.2011.
接着性レジンが歯と接着する原理
口腔内は過酷な環境だ。接着には不利な要素が多い。唾液、熱いもの、冷たいもの、酸味の強いものもしょっちゅう、容赦なく入ってくる。さらに、絶え間なく打ち続ける上下の歯同士の強裂な接触。超ハードな環境に置かれているにも関わらず、歯冠補綴物は削られた歯面の上に被せられた後、結構、長期間持つ。これは考えてみれば凄いことだ。なんで、被せた補綴物はそう簡単には取れないのだ?特に最近の接着性レジンセメントの力は目を見張るものがある。そこで、今日のテーマは、接着性レジンセメントが歯と強固に接着する原理についてだ。
接着性レジンセメントが強力に歯にくっついてしまう秘密は、歯面にセメントを乗せる前に適切な前処置を行うところにある。セメントが乗っていく相手は天然歯支台(組織的にはエナメル質や象牙質)以外にも、金属支台や非金属であるコンポジットレジン支台、セラミックス支台などがある。これらの支台にいきなりレジンセメントを乗せても接着力は出ない。
天然歯質にはリン酸エッチングと呼ばれる強酸でエナメル質表面を荒らし、凸凹を形成しておけば、その凸凹内にレジンが侵入してタグを形成するので接着力が生まれる。象牙細管と呼ばれる細管構造を基質内に持つ象牙質をエッチングすれば、象牙細管内にレジンタグが形成されるだけでなく、管間象牙質、管周象牙質に対して樹脂含浸層が形成され、強力な食いつきが生じる。
金属面に対しては金属接着性プライマーをあらかじめ金属面に塗っておく。それから接着性レジンをのせると、金属とレジンの両方にくっつく性質を持つプライマーが金属面と接着性レジンの両者の仲立ちをし、両者を強力に結合させるのだ。この接着機構の詳細は不明だが、プライマーに含まれる硫黄原子(S)がどうやら接着に関与しているらしい。サンドブラスト処理も接着力を高める前処置で、これは50μmアルミナ粒子をサンドブラストで平坦な金属面にぶつけて陥凹をつくり、機械的篏合力を生じさせるわけだ。
コンポジットレジン支台と接着性レジンとは、同じレジンだから容易に結合するだろうというイメージがある。が、現在のレジンはマトリックスに多感応性メタクリレートを用い、強度を増すために無機質フィラーを多量に混入させているため、たとえレジン同士であっても化学的結合はあまり期待できない。そこで、現在のコンポジットレジンに対する接着は、フィラーに照準を合わせている。そこで、50μmアルミナサンドブラストで表層を一層ざらつかせて機械的篏合力を高めると同時に、内部に埋入される無機質フィラーを表面に露出させて、シランカップリング剤を塗布してから接着性レジンを乗せる。そうすると、フィラーと接着性レジンが強力に接着することで、接着性レジンはコンポジットレジンに強固に接着する。
セラミック支台の場合も、50μmアルミナサンドブラスト処理後、シランカップリング剤を塗布してから接着性レジンを乗せる。セラミックス冠が接着性レジンと接着する理屈と同様の原理で、接着性レジンはセラミック支台と強力に接着する。
参考文献:安田 登. オールセラミッククラウンの各種支台に対する接着.補綴誌. 43:225~231,1999.
シランカップリング剤
今日のテーマも接着だ。その中でも、「シランカップリング剤」について言及したい。接着の文献を読んでいると、「シランカップリング剤」という用語が頻繁に登場し、これは接着における重要な材料だと気づく。これまで、例えばファイバーポストをレジン系セメントで歯に接着したい時、何気なくアシスタントに「はい、シランカップリング処理して」などと頼んでいたわけで、この用語は知っていたものの、この材料の重要性をあまり深く理解していなかった。しかし、この材料の果たす役割は重要だ。
シランカップリング剤は、一般にR―Si―X3の構造式で表される化合物だ。Rは有機基、Siはケイ素原子、そしてX3はシリカなどの無機質に結合する基を表している。眠くならないでくれ。自分も有機化学は苦手だ。この辺はざっくりといこう。この材料は「カップリング」という名称を持つだけに、何かと何かを結び付ける役割をしている。その何かとはシリカなどの「無機質」とメタクリルレジンなどの「有機高分子」だ。シリカなどの無機質は親水性である一方、有機高分子は疎水性で、両者は仲が悪い。水と油のようにけっしてなじまないのだ。ところが、馴染みにくい両者の間に入って仲介し、両者を結び付けるのがシランカップリング剤だ。「カップリング」の名称はここから来ている。ちなみに「シラン」という物質は何かというと、ケイ素の水素化合物らしいがややこしくて、よく”しらん”!(^^)!。
この「シランカップリング剤」は、1987年の文献(1)では、コンポジットレジンのフィラーとレジンとを結合させる鍵となる重要な材料として登場する。コンポジットレジンは強度を増すために、石英やシリカから作られるフィラーとよばれる硬い粒子が軟らかいレジンに混ぜられている。この時、親水性の無機質のフィラーと疎水性の高分子有機のレジンを強く結び付ける材料がシランカップリング剤だ。
このシランカップリング剤は、コンポジットレジンにおけるフィラーとレジンのカップリング剤として使用されるだけでなく、現在では、補綴の主流となりつつあるセラミックスを、接着性レジンを介して、形成した歯面に接着させる際に使用される必須の材料となっている。セラミックスは、シリカを含むシリカ系セラミックスとそれを含まない非シリカ系セラミックスに別れるが、シリカ系セラミックスのクラウンやインレーを歯面にレジン系セメントで接着する場合には、レジンセメントをセラミック冠内面に盛る前に、必ずセラミック冠内面にシランカップリング剤を塗布しなければならないことになっている。セラミックはSiO2が主成分であるゆえに、シランカップリング剤がよく結合する。したがって、接着性レジンとセラミックスが強力に接着することになる。
参考文献:(1)西山典宏、早川 徹. シランカップリング剤について.AD Vol.5 No.3,4 129-133. 1987.
接着材は進化し続ける
今日は県の歯科医師会主催の学術セミナーで”接着”の話を聞いてきたので、今日のテーマは”接着”だ。具体的には接着性レジンだ。
現在、各メーカーから多くの種類の接着材が販売されているが、その基本コンセプトは今も昔も変わらない。「エッチング」、「プライミング」、「ボンディング」の3つのステップが基本だ。以前は、それぞれのステップに対応する「エッチング材」、「プライマー」、「ボンディング」が売られていたが、やがてエッチングとプライミングがワンステップとなった材料(つまり一つの液で両方の役割をはたす材料)が発売されて2つのステップで接着出来るようになった。そして、今や、1ステップの接着剤が販売されている。つまり、一つの液で、「エッチング」、「プライミング」、「ボンディング」の3つの役割を果たすオールインワンの材料がでている。これはテクニックセンシティブだが、確かに便利だ。これは、「ユニバーサルボンド」と呼ばれるもので、どういう風にテクニックセンシティブかというと、エアブローが微妙に接着効果に効いてくるのだ。オールインワンにするため、疎水性のものと親水性のものを同じ溶液に混ぜるためにアセトンという溶媒をいれている。これを、エアブローで飛ばし過ぎると、親水性のものと疎水性のものが共存できなくて分離してしまう。つまり、エアーでアセトンを飛ばしすぎると両者が分離してしまう。微妙な湿り気の按配がキモだ。
こういった、オールインワンのコンセプトは、長所と短所を併せ持つが、臨床はシンプルな方が良いので、多少のテクニカルな問題は注意深いトレーニングで克服可能と思う。接着操作がシンプルになる以外にも、このユニバーサルボンドは歯面に塗るだけで窩洞・支台歯のシーリング材として利用可能なことも魅力だ。知覚過敏歯に塗布することで象牙細管を即時に封鎖することも可能で、用途が多様という点で臨床的に優れているといえる。
垂直性の歯根破折はホープレスだ
今日のテーマは歯根破折だ。歯根破折といっても、歯の長軸に沿って破折線が入っている場合(垂直性歯根破折)や、長軸に直行する形で破折線が入っている場合(水平性歯根破折)や、斜めに破折線が入っている場合もあり、いろいろだ。そして破折の状況も、マイクロクラックと呼ばれる細い亀裂だけの場合もあれば、亀裂が進んで完全な破折にいたり破折片がバコバコと動いている状況が肉眼で確認できる場合もある。
さて、歯根破折をきたした歯の予後だが、結論から言えばケースバイケースだ。マイクロクラックは適切な処置で救済される場合もあれば、そのまま放置して破折が進行しホープレスとなる場合もある。
破折の入り方によっても予後が変わる。時々、デンタルX線で完全に水平な歯根破折が根の中央あたりに見られるのに、臨床症状がまったくない場合がある。こういう場合はそのままの状態を維持できる可能性がある。破折部が口腔と交通していないために感染からまぬがれ、破折部の歯髄組織や硬組織が自然治癒しているのだ。生活歯であれば、歯根が破折しても感染しなければ、骨折と同様に治癒することがある。また、口腔と交通している場合には破折部が感染し、痛みや腫れといった臨床症状を呈した場合はアウトだ。破折部位が口腔と隔絶されているか、交通しているかで、破折歯の命運がわかれる。
垂直性の歯根破折はホープレスだが、それは破折線が垂直性ゆえに口腔と交通することによって感染が成立するからだ。一旦、垂直的に歯根破折した歯に感染が成立したら、その感染は抜歯する以外に制御できない。垂直性の歯根破折はホープレスだ。
CO2レーザー照射は創傷治癒を促進する
レーザーは殺菌効果だけでなく、使用するレーザーの種類にもよるが、創傷治癒を促進する効果がある。手元に、ラット抜歯窩に炭酸ガス(CO2)レーザーを照射して、治癒課程を組織学的に観察した基礎研究論文があるので紹介しよう。
一般に、抜歯後の治癒課程の一番最初のステージとして、抜歯窩が血餅に満たされる状況が出現するが、このプロセスが正常な治癒に至るための必須条件であり、極めて重要だ。 この実験では、抜歯直後の抜歯窩からじわーっと湧き出てくる血液に触れないように、非接触で高出力レベルレーザー治療(HLLT:High reactive Level Laser Therapy )を行った群、さらに翌日に低出力レベルレーザー治療(LLLT:Low reactive Level Laser Therapy)を接触下で追加した群、および非照射群の三つのグループに分けて,治癒の様相を比較している。
その結果、抜歯後21日目の組織学的観察では、3群とも抜歯窩に新生骨の形成が認められたが、レーザー非照射群が表面が陥凹していたのに対して、レーザー照射群は、2群とも表面が平たんだった。さらに骨形成量は、抜歯当日にHLLTを一回行っただけの群より、翌日にLLLTを追加した群の方が骨形成量のレベルが高かった。結局、抜歯当日と翌日にHLLTとLLLTの両方をおこなった群の方が骨形成量が多かったわけで、すなわち治癒が促進されたといえる。
このCO2が抜歯後の治癒を促進する解釈として、論文内では血液に高レベルのレーザー照射を行うことで血餅を即時に形成させて正常治癒のスタートを約束し、低レベルのレーザー照射を追加することで破骨細胞や骨芽細胞の活性を高めることが出来、治癒スピードがアップすると考えている。
こういったレーザーの治癒に及ぼす生物学的効果は、きわめて興味深い。少しでも早く治癒に持っていきたい局面が実に多いのがリアルな臨床だからだ。
参考文献:大郷友規,福岡宏士,大郷英里奈,柿本和俊,高橋一也,小正 裕. ラット抜歯窩への炭酸ガスレーザー照射による創傷治癒課程における組織学的解析. 日レ歯誌,25:75-81,2014.
インプラント周囲炎に対する各種レーザ治療の現在の評価
インプラント周囲炎に対する各種レーザー治療の有効性に関するシステマティックレビューとメタアナリシスが2014年の米国歯周病学会誌に掲載されている(1)。PubMedやCochrane から電子的に渉猟された137編の文献から、15編の論文が絞り込まれ、さらに最終的に研究デザインとしてコントロールを取っている6編に絞り込まれている。そのうち、Er:YAGレーザーが4編、CO2レーザーが1編、PDH(Photodynamic therapy)が1編である。よって、Ee:YAGレーザーのみがメタアナリシスの対象となっている。
そのメタアナリシスの結果、歯周ポケットの深さとアタッチメントロスをパラメーターとして見た場合、インプラント周囲炎に対するレーザー治療の効果は、対照群(プラスティックスケーラーによるデブライドメント、およびクロルヘキシジンによる消毒、などの従来的方法を施行した群)と比較して統計的有意差はない、と結論している。ということは、レーザー治療の現在における位置づけは、安全な治療ではあるが、従来の方法を超える画期的な治療法ではなく、インプラント周囲の炎症の原因を取り除く多くの方法の一つに過ぎない、ということになる。
もっとも、現段階では研究デザインの質の高い臨床研究の絶対数が少ないので、レーザー治療のこの評価は近い将来、変わるかもしれない。
参考文献(1)
Kotsakis GA1, Konstantinidis I, Karoussis IK, Ma X, Chu H.
J Periodontol. 2014 Sep;85(9):1203-13.
レーザーの歯周・インプラント周囲組織への効果
今日のテーマもレーザーだ。今日、レーザーは多くの種類があるが、歯科用レーザーとしては、エルビウム・ヤグ(Er:YAG)レーザー、Co2レーザー、Nd:YAGレーザー、半導体レーザーが主だ。ところで、インプラント表面は細かい溝がきられており、さらにその溝を構成する表面も小さな凸凹の面からできているので、機械的には清掃しにくい。汚染されたインプラント表面をデブライドメントしたい時には、非金属のチップの超音波スケーラーや、エアーアブレイジョン(パウダーの吹き付け)、あるいはチタンワイヤブラシでこする、といったものが現在行われている機械的清掃法だが、はたして本当に表面の微細な窪みにこびりついた汚れが取れているのか不安に思う。したがって、汚染されたインプラント表面の清掃ツールとして、光さえ到達できれば殺菌効果が期待できるレーザーは有望だろう。
インプラントに対するレーザー照射に求められる条件として、1)チタン表面が物理的に変化しない 2)熱障害が少ない 3)周囲組織(特に骨組織)に熱障害を与えない、等である。上述の歯科用レーザーのうち、以上の条件を満たすものは、エルビウム・ヤグ(Er:YAG)レーザー、Co2レーザーだ。 Nd:YAGレーザーや半導体レーザーは禁忌。Er:YAGやCo2レーザーは水への吸収性が高く、照射部位のごく表層でのみ作用するため、生体に及ぼす熱副射作用が少なく、歯周病やインプラント治療に安全に使用できる。また、汚染されたインプラント表面に照射した場合、適正な出力レベルで使用する限り、照射範囲がごくわずかであるために過度の温度上昇は起こらず、安全に使用できる。
インプラントへの具体的効果として、根面の歯石の蒸散効果、殺菌効果、歯肉の蒸散効果、骨面のデブライドメント効果、インプラント表面のデブライドメント効果などがあげられる。
CO2レーザーの使用経験からいうと、使用方法が簡単なところが気に行っている。なにせ、光を当てさえすればよいのだから。そして、光が一直線なのもよい。なにせ、自分も一直線な人間なもんで。
参考文献:和泉雄一,吉野敏明.インプラント周囲炎を治療する. 医学情報社, 東京, 2010
歯周治療における抗菌的光線力学療法
1960年に世界で初めてルビー・レーザーが登場して以来、様々な分野で光エネルギーの応用が試みられてきている。医科においても皮膚科、眼科、外科等でその応用が急速に進歩しているが、歯科においても20年以上前からレーザーが歯周治療に取り入れられている。最近、低出力レーザー(LLLT:Low-level laser therapy)や発光ダイオード(LED:light emitting diode )を光感受性薬剤に照射して活性酸素を発生させることで歯周病菌を殺菌する新たな抗菌的光線力学療法(antimicrobial photodynamic therapy)が登場し、注目されている。今日のテーマはその光線力学療法だ。
具体的には、トルイジンブルーやメチレンブルーの青色色素を光感受性薬剤として用い、これを直接、歯周ポケット、あるいはインプラント周囲ポケット内に注入する。そして、先の曲がった細いチューブの先端から低出力レーザーやLEDが照射されるように設計された装置の先端をポケットの入口に接近させて光線を発射することで殺菌効果が得られる。すなわち、光照射を受けて青色色素から活性酸素が発生し、これがポケット内の歯周病菌を殺すのだ。
本法は術式がシンプルで、従来の機械的清掃器具が到達させにくい微妙な間隙や汚染されたインプラント表面のデブライドメントに有効と思われる。個人的にはインプラント周囲炎のオペで活躍するのではないかと思っている。
こういった新しい治療が現在の歯周治療でどういったポジションを取っているかというと、その治療効果は非常に良好であるが、臨床報告が限られているために、従来的な歯周治療に対するオプションにとどまっている。今後、長期予後に関する無作為比較試験、メタアナリシスを経たのち、その有効性が科学的検証で確認され次第、スタンダードな治療となっていくだろう(1)。
参考文献
(1)Application of antimicrobial photodynamic therapy in periodontal and peri-implant diseases.
糖尿病とオートファジー
つい最近、東京工業大学の大隅教授がオートファジーの研究でノーベル賞を受賞されたので、今日のテーマはオートファジーだ。オートファジーとは細胞のたんぱく質のリサイクルシステムのことだ。栄養の供給が十分でない時、生体は古くなった細胞内タンパクを自ら破壊してアミノ酸を生成し、生体に必要な新しいタンパクを合成する材料としてそれを利用するシステムだ。このオートファジーは、糖尿病やパーキンソン病、がんなどと関係しているらしい。そこで、今回は話題のオートファジーがどのように糖尿病と関連するのか調べてみた。
糖尿病の重大な合併症の一つに血管障害があるが、大血管系が障害されると心臓血管障害が引き起こされるし、小血管系が障害されると治癒障害が引き起こされる。こういった血管障害は血管内皮細胞の機能障害に起因するわけだが、高血糖状態が血管内皮細胞の増殖や分化などの機能にネガティブな影響を及ぼすのだ。糖尿病における血管内皮細胞の機能障害の機序については最近まで多くが不明だった。
ところで、最近になって、この糖尿病の血管内皮細胞の機能障害にはオートファジーが関与することが明らかになってきている。具体的には、高血糖下においては血管内皮細胞においてオートファジーが誘導され、ミトコンドリアの酸化ストレスの亢進と共に、血管内皮細胞の機能障害を起こすことが報告されている(1)。
これは糖尿病とオートファジーとの関連性を示す一部の例に過ぎない。自己を解体し新たな体を自ら創り出すことは生命の本質だ。オートファジーとは生命現象の本質のところだけに、多くの疾患の発症原因の根本の部分とかかわっているということだ。その機構の解明がノーベル賞に値することは十分理解できる。
参考文献:
(1)Biol Pharm Bull. 2014;37(7):1248-52.
Kim KA, Shin YJ, Akram M, Kim ES, Choi KW, Suh H, Lee CH, Bae ON.