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2016年11月

いわゆる従来型の部分義歯とインプラントブリッジは共存できるか?

 インプラントと、取り外し自在な従来型の義歯を口腔内に共存させることは結構多い。新しいものと古いものとのコラボという感じだが、この場合の義歯はインプラントが義歯を下支えすることでサポートする格好となるのが一般的だ。インプラントの上にかぶさっていく格好になるインプラントオーバーデンチャーといわれるものだ。義歯は本来、ふわふわした粘膜の上に乗るものだから、どうしても咬み圧で沈下したり、側方に若干移動したりする。ところが、インプラントは顎骨の中で動かないので、これにかぶさるインプラントオーバーデンチャーは顎骨にリジッドに固定される。アバットメントと呼ばれる接続装置を介在させるからだが。総義歯の場合、無歯顎の顎堤に2本、ないし4本インプラントを埋入する。こういった形で使用されるインプラントが義歯の維持、安定にもたらす貢献は臨床研究で十分に確認されている。

 ところで、総義歯は避けたいのでインプラントを考えるわけだから、インプラントオーバーデンチャーの受け入れに躊躇するというケースがある。この場合、インプラントの一般的な使われ方であるインプラントをブリッジの支台として使用し、インプラントブリッジで歯列を構成することになるのだが、その場合、インプラントを埋める場所に制限が加わることがある。たとえば、上顎の臼歯部は上顎洞底が歯槽頂に接近し過ぎているとサイナスリフトが必要となり、高齢者にはいささかハードルが高くなる。そこで、前歯部にはボーンアンカードブリッジ(=インプラントブリッジ)、無歯顎の臼歯部にはブリッジの咬合面遠心端にレスト座とクラスプをかけて従来型の部分義歯をのせるというアイデアが浮かぶが、そのような例はあまり一般的でない。そこで、そういった臨床例がないか調べてみた。

 結論から言うと、インプラントブリッジと従来型の部分義歯との共存は可能だ。ただし、インプラントブリッジと部分義歯との接続部に精密なアタッチメントを用い、かつその連結はリジッドではなく、多少義歯がフリーに移動出来るものでなければならない、という条件が付くのだが。安易に、インプラント上部構造のクラウンブリッジに、従来型のエイカースクラスプなどはかけないほうが良いと思われる。エイカースクラスプのクラウンへの接続様式はリジッドであり、強固にクラウンをホールドし過ぎるからだ。

 インプラントブリッジがメインで、アバットメントの介在により従来型の義歯がサブとして使用が可能になる、というのはインプラントオーバーデンチャーの場合と両者の位置づけが真逆になっているようで、面白い。 

参考文献:Precision attachment case restoration with implant abutments: a review with case reports. Feinberg E.J Oral Implantol. 2011 Aug;37(4):489-98. 

インプラント周囲炎を起こし易い上部構造の形態

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 右の写真の左の端のインプラントの上部冠は、これから上部冠を作製するための試作段階のアバットメントと試作冠だ。適合度をX線で評価できるようにメタルとレジンで出来ている。

 ところで、この試作冠の形態はあまりよくない。二つよくないところがあって、一つ目はアバットメントの高さが低すぎること、二つ目はアバットメントと冠辺縁の移行部に隅角が存在しアンダーカットができてしまっているところだ。いずれも、将来、インプラント周囲炎を引き起こす原因になり得るので、明日、テクニシャンとディスカッションしてファイナルではこの点を改善する予定だ。

 

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 なぜアバットメントの高さが低くなるかというと、テクニシャンは審美を優先して、冠辺縁を歯肉縁下に入れこもうとするからだ。隅角が生じてアンダーカットができるのもその理由から。ところが、これはよくない。アバットメントと冠辺縁の移行部のレベルは、審美が関係ない臼歯部なら歯肉縁でよい。審美が重要な部位で冠辺縁を歯肉縁下に入れたいならアバットメントの高さ(プラットフォームから冠辺縁までの距離)が2ミリ以上確保できる程度にインプラントを深く埋めて置かなければならない。

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審美領域でないなら、アバットメントのメタルが歯肉縁からちょっとはみ出していてもいいではないか、と考えている。それくらいに思うほど、インプラント周囲炎は嫌なものであり、是が非でも避けたい。

インプラント周囲炎を引き起こしやすい上部構造の形態について、本HP内の「Dentist」に書いているので、是非読んで行って欲しい。

 

 

インプラント表面の性状の違いで、なぜ骨との結合スピードに違いが出るか?

 今日、抜歯即時埋入したストローマンBLTインプラントのオステルを計測したら]、66~67の数値を打ち出していたので驚いた。埋入後、まだ50日しかたっていないからだ。前にも書いたが、一昔前は、オッセオインテグレーションに至る平均期間が3~6カ月であったことを考えると、現代のインプラント表面性状の進化が骨との結合期間を著しく短縮していることに驚嘆する。そこで、今日は、インプラント表面性状の何が変わったから、これだけ骨との結合スピードが上昇したのかについて調べてみた。

 インプラントの表面が具備する性状が骨と結合するスピードに影響を与える具体的要素として、表面トポグラフィー(表面粗さ、細かな凸凹具合)、化学的性質、表面の荷電、濡れやすさ、といったものが挙げられる。1999年に発表されたストローマンのSLA(Sand-blasted Large-grit Acid-etched )サーフェイスを例にとると、先ず、表面粗さだが、サンドブラスト処理してマクロラフネスが与えられ凸凹になった表面に、さらに酸エッチング処理することで2-4μmのマイクロピットが出来上がっている。このような粗造な面が骨界面となった場合、骨芽細胞様細胞の増殖や分化、タンパク合成に有利とされ、従来のTPSサーフェスに比較して治癒期間が短縮された。さらに、SLAサーフェスに新たな改良が加えられ、2006年 世界初の親水性表面構造(hydrophilic surface)が開発され、SLActiveとして発売された。これは酸化チタン表面に親水性を具備させたもので、要は濡れやすい性状を獲得させた。これにより分子表面が水のシェル構造でくるまれた形で存在するタンパクなどの生体物質がよりインプラント表面に付着しやすい環境を作り出すことに成功した。その結果、SLAサーフェイスよりさらに治癒期間が短縮された。

 と、ストローマンのインプラント表面性状の例を出して説明したが、各メーカーともインプラント表面で骨形成が速やかに行われるような環境づくりに貢献できるような表面性状の開発に心血を注いでいるわけだ。そのおかげで、インプラント治療は確かに治療期間が短縮されてきた。これは患者にとっても、歯科医師にとっても感謝すべきことである。

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参考文献:

Bornstein MM, Wittneben JG, Brägger U, Buser D. Early loading at 21 days of non-submerged titanium implants with a chemically modified sandblasted and acid-etched surface: 3-year results of a prospective study in the posterior mandible. J. Periodontol. 2010 Jun;81(6):809–18.

ブラキシズムによる歯の摩耗

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 ブラキシズムは口腔の健康維持にとって、大いなる脅威だ。ブラキシズムとは、喰いしばりや歯ぎしりのことをいうが、多くの口腔組織の破壊現象を引き起こす。歯の摩耗はその一例。右の写真は下顎前歯がブラキシズムにより、対合歯と擦り合わされた結果、著しく摩耗している。対合歯がメタルであればテキメンだが、メタルでなく天然歯であってもこうなる。

 歯の摩耗以外に、知覚過敏や顎関節症、頭痛、肩こり、腰痛や下肢痛など、多くの全身的な不調を引き起こす原因となる。だから、全身の健康維持のために、ブラキシズムに対して適切な対応しないといけないのだが、実はこれが厄介なのだ。現在のところ、ブラキシズムは中枢神経に由来するイベントなので、これを歯科的手段で止めることは出来ないと考えられているからだ。

 ブラキシズムについては、本HP内の"Dentist"に自分のリサーチ、「咬み合わせとブラキシズム」を載せているので、是非読んで行って欲しい。

 

 

咬み合わせと眼科

 咬み合わせの不調和があると、さまざまな全身的な不調が引き起こされるという話はよく聞く。たとえば、咬み合わせがずれると、頭痛、肩こり、腰痛、下肢痛、うつ、めまい、難聴、耳鳴り、視覚障害、生理不順・生理痛、手の冷え、足の冷え、汗をかく、アトピー、アレルギー性鼻炎、花粉症、胃腸障害、便秘・下痢、四十肩、五十肩、などなど。しかし、これらの症状のうち、咬み合わせと関連するエビデンスの明確なものは、私のリサーチの限りでは、頭痛、肩こり、腰痛、下肢痛、うつ、めまい、難聴、耳鳴り、視覚障害までだ。これらは咬み合わせと関連することがしっかりとした学術雑誌に報告されている。生理不順、以降は、おそらく咬み合わせと関連するのは事実だろうが、今のところ国際的な学術雑誌を対象とした場合、これらの症状が咬み合わせと関連するエビデンスを報告した文献を検索できない。

 さて、今日はエビデンスがあるものの最後に挙げた視覚障害と咬み合わせとの関連性について書く。実は、これまで咬み合わせと眼科症状との関連性について報告した文献はあるものの、なぜ咬み合わせの不調で眼科的症状が起こるのかというメカニズムを解剖学的、生理学的に説明した文献の数はあまり多くない。最近、こういった点に焦点を当てたレビューが出たので紹介する(1)。ただし、この文献はややこしくて、読むのに時間がかかる。レビューであるから、多くの文献のそれぞれの要点を解説しているのだが、要は顎口腔系と眼科領域とは三叉神経で支配されているところに共通項があり、そこに両者が機能的にリンクする所以がある、というもの。三叉神経は運動神経でありながら、知覚神経の機能も併せ持ち、かつ自律神経系(交感神経および副交感神経)とも神経核を介してリンクしているので、三叉神経のネットワークは複雑極まりないが、この辺の理解が明らかになってくると、これまで自律神経失調で片づけられてきた、いわゆる不定愁訴(ふていしゅうそ)とされる悩ましい身体の不調が、現実に咬み合わせと関連して起こることが明確に説明可能になるので、やはりたとえ難解でも三叉神経の解剖学的、生理学的新知見の理解は重要だ。こういった三叉神経の重要性が深く理解されるようになると、やがて、顎口腔領域の専門家である歯科医師が自律神経失調症の治療に貢献できる時代が来る。

参考文献:

(1)Dental Occlusion and Ophthalmology: A Literature Review. Marchili N, Ortu E, Pietropaoli D, Cattaneo R, Monaco A. Open Dent J. 2016 Aug 31;10:460-468.  

術後管理

 術後管理は、手術の成果をあげるためにとても重要だ。手術をしただけでは、目標に向けてスタートを切っただけで、目標地点に正しく到達するためには適切なナビが必要だ。例えば、抜歯後、創を上手く治癒させるには、術直後に抜歯窩(ばっしか)が血餅(けっぺい)で充満されることがとても重要。なぜなら、創が正常な治癒機転に乗るために必要なすべての因子は、生体が本来、体内に準備しているのだが、その治癒達成因子はすべて血餅内にセットで準備されているからである。本来、創を治癒させる主体は術者ではなく、生体自体が元から持っている治癒能力なので、手術は目指す環境を作り出す為のお膳立てのようなものだ。

 だから、生体が治癒しようとする機転を損ねるような環境は、是正しないといけない。たとえば、抜歯当日、うがいをし過ぎると抜歯窩治癒不全に陥る。また、インプラント手術後、硬い食物を摂取するとインプラントは動揺をきたし、下手をすると脱落する。だから、当院ではインプラント手術後、週二回ペースで経過を見させていただく。そうすることで、治癒機転を阻害する因子がありそうな場合は、適宜、改善できる。手術後、次回は2週間後に来てください、というのはよくない。手術直後、インプラントの存在を気にして、無意識に舌で触ってチェックしたくなるだろうが、経過観察を密にすることで微妙な治癒の異常をキャッチすることが出来、絶対にそんなことはしないでほしいと注意することが可能になる。

 術後管理は、成果を上げるためにとても重要と認識している。

咬み合わせと姿勢

 咬み合わせと姿勢は従来から関係があると考えられていたものの、それを証明する研究手段の問題もあって、咬み合わせは姿勢に影響を与えるか、否かについては賛否両論あった。しかし、最近になって、咬み合わせは姿勢と密接に関係がある、とする報告が多く出て来ている。

 咬み合わせが姿勢に影響を与えるか、否かの研究結果は、その研究手段や研究デザインが関係する。姿勢を評価するパラメーターとして、何を選択するかということも重要だ。たとえば、重心動揺計を用いたデータはデリケートで、誤差が入る可能性がある。また、臨床的にインパクトのある研究デザインは、人を対象として実験群は咬み合わせを操作して片側でしかし咬めないようにしておき、それ以外の条件を対照群とそろえて一か月間なり一定期間生活させ、脊椎の湾曲を計測し、片側での咬合を強いられた群に脊椎側弯の傾向が有意に認められることを立証する,というような研究デザインが考え得るが、現実にはそのような研究は倫理的に実現しない。したがって、なかなか、咬み合わせが姿勢に影響を与えることを決定的に証明する報告は出にくいのだろう。

 しかしながら、姿勢を評価する方法を別の切り口で検討すると、咬み合わせが姿勢に影響することが明らかになってくる。「咬み合わせがバランスを失うと姿勢が変化する」、ということをもっと明瞭に表現すれば、「下あごの骨に左右不均等な咬み力が加わると、頸椎が歪み、その頸椎の歪みは脊椎全体を歪ませる」という表現になるだろう。脊椎の歪みをパラメーターとすれば、咬み合わせがパラメーターに有意な変化を起こさせることを捉えやすい。そして、それは事実である。このことは、有限要素法解析や動物実験で証明され得るし、そのような実験結果が実際、報告されている。また、人において一時的に咬み合わせを変化させると、脊椎のアライメントが明らかに変化する、すなわち姿勢が変化することが報告されている(1)。前述の報告では、脊椎の歪みは超音波の使用により測定されており、従来の計測法より精度が向上してきていることも結果の信憑性につながっている。

 最後になるが、咬み合わせと姿勢に関した私のリポート、”咬み合わせと姿勢”を本HP内の”デンティスト”で紹介しているので、是非、読んで行って欲しい。

参考文献:

 

デジタル時代の効用

 事情があって,二階のオフィス機能を一階に移すことになった.よって,オフィス機能を営むのに必要最小限度のものを残して断捨離することにした.真っ先に廃棄する対象は,古くなった本や雑誌だ.自分は学術雑誌は古いものでも取っておく方だったが,この機会にすべて廃棄することにした.なぜなら,現在では,過去のバックナンバーはネット検索で読めるからだ.各学会は,その学会誌の過去のバックナンバーをデジタルで記録保存しており,会員はIDやパスワードを入力すれば(IDやパスワードが不要なことも多い),オンラインで自由に過去の学術雑誌を閲覧することができる.だから,紙の雑誌はもはや保存する必要がないわけだ.

 これは,スペースが節約でき,大いに助かる.ネットの普及はよい面と悪い面があり,サイバー攻撃やネット犯罪などの嫌な面もあるが,オンラインで膨大な情報を瞬時に検索して手に入れることができるのは良い面だ.よかれ,あしかれ,今はこういう時代なのだ.時代はどんどん変わっていて,そして,この状況はとてもエキサイティングだ.まだまだ変化をつづけるこの時代を面白がり,どんな世界がやって来るのか楽しみに,時代について行きたい.

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チッピング

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 歯冠の一部が欠けることをチッピングと呼ぶが,なかなか嫌なものだ.上の写真は,上顎犬歯のレジン前装冠の破折である.金属にレジンを貼り付けた二層構造をしているので,犬歯誘導という重要な役割を担うつけで,犬歯の場合は切端部にかかる側方力が,唇面に貼っているレジンを剥離させることがある.この場合のリペアは比較的容易だ.金属に接着するレジンを,再度,唇面に貼り付け,犬歯誘導時に,下顎の犬歯がレジン面を滑走しないように咬合調整することはそれほど困難なことではない.

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 一方,咬合面となると話は別だ.たとえ咬合面にレジンを貼ったとしても,強い咬合圧で間もなくすり減ってしまい,もとの木阿弥になる.だから,咬合面をレジンで被覆しているクラウンの,咬合面のチッピングは厄介なのだ.

 かといって,絶対に割れない超硬い素材で歯冠を被覆した場合,歯冠はチッピングしなくても,歯根破折や辺縁歯槽骨吸収などを起こしかねない.歯根が折れたり,歯根周囲の骨が溶けるくらいならチッピングした方がまだマシ,という考え方もある.割れた方がいいのか?割れない方がいいのか?チッピングの問題は臨床家の悩みの種といえる.

 

インプラント周囲炎(2)

 インプラント周囲炎の治療と予防は,今日の歯科医学が真剣に取り組まなければならない課題だ.必ずしも,全世界の学会で共通の統一的なインプラント周囲炎の診断基準や治療法が確立されているわけではないが,少なくとも現段階である程度のコンセンサスが得られているものがあれば,現時点でのベストの判断と対処に生かしたい.

 先ず,インプラント周囲炎の診断基準だが,プロービングとエックス線診断が重視されている.0.25Nの挿入圧で測定されるポケット値とBOP(Bleeding on Probing:プロービング時の歯肉出血)や排膿の有無は重要だ.プロービング時に歯肉出血を伴うことは,活発な歯周病原菌の存在を示すことは天然歯の歯周病と同様である.

 診断基準として,ポケットが4mm以上(BOPや排膿を伴う)で,ボーンロスがインプラント長の25%未満を初期型,ポケットが6mm以上(BOPや排膿を伴う)でボーンロスがインプラント長の25%以上で50%未満を中期型,ポケットが8mm以上(BOPや排膿を伴う)で,ボーンロスがインプラント長の50%を超えるものを進行型としている.

 

 

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