あるきっかけで、咬筋や側頭筋へのボトックス(Botox)注射がブラキシズム(Bruxism)を伴う顎関節症(TMD)に有効かどうかを調べてみた。
これまで自分の中で、ボトックスは美容外科で用いられるという先入観があったのだが、調べてみると1990年代後半からTMDの治療に使われていたらしい。とはいえ、この治療法は現在でもTMDの一連の正統な治療法とはみなされておらず、従来的治療法が無効なケースに適応を試みるべき新しい治療法として位置づけられている。その有効性については肯定的なものと否定的なものに議論が分かれており、現在も検証段階にあるといえる。
ところで、最近になって、ボトックスの顎関節症に対する有効性は、一概に「顎関節症」という疾患名でひとくくりにするべきでなく、顎関節症といっても色々なサブタイプがあるので、それぞれのサブタイプ毎に有効性を論じるべきだという意見が出て来ている。今回はそういったひとつの論文を紹介する。
以下はその概要。
・今回、TMDの診断基準を満たす71人のアメリカ合衆国退役軍人を調査対象とした。
・彼らに対して1回のみ咬筋および側頭筋内にBotox注射を行った。そして、その後、5週間目と10週間目に経過観察した。その有効性の評価方法は自己申告に基づく「有効」/「無効」のアンケート調査であり、71人中55人が「有効」(77%)と回答した。
・Botox注射実施後5週間では効果は明確ではなかったが、実施後10週間でその有効性が確認された。
・TMDをサブタイプに分類した。すなわち、ストレスが関連する何らかの精神障害を伴う/伴わない、また咬筋および側頭筋などの咀嚼筋障害を起こしている/いない、さらにburuxismを伴う/伴わない、といった観点からいくつかのサブタイプに分類し、それぞれのサブタイプ別にBotoxの効果を判定した。
・結論として、Botoxは、Bruxism、咀嚼筋障害、およびストレスが関連する何らかの精神障害を伴うタイプのTMDに対して有効だった。
参考文献 1:
Int J Oral Maxillofac Surg. 2017 Mar;46(3):322-327. doi: 10.1016/j.ijom.2016.11.004. Epub 2016 Nov 28.
Connelly ST, Myung J, Gupta R, Tartaglia GM, Gizdulich A, Yang J, Silva R.