今日は、インプラント周囲の軟組織が角化歯肉ゼロの状態のケースに、遊離歯肉移植を用いた付着歯肉形成術を行ったので、そのテーマで書く。
少し前までは、インプラント周囲炎のなり易さと周囲軟組織の角化歯肉の量については、関係性があることは推察されていたが、必ずしも決定的なコンセンサスが得られていなかった。すなわち、インプラント周囲炎を起こさないために、インプラント周囲に最低2ミリの幅の角化歯肉の存在が必須であるとする意見と、角化歯肉の存在は必ずしも必須でないとする意見が両立していたのだ。ところが、現在ではこの議論には終止符が打たれ、インプラント周囲に最低2ミリ幅の歯肉の存在がインプラント周囲炎を予防することが決定的となっている。
自分の臨床でも、インプラント周囲に角化歯肉が存在していた方が、存在しないよりも明らかに炎症が起りにくいと実感している。インプラント周囲炎の原因はインプラント周囲のプラークの堆積であることは間違いない。角化歯肉の存在がなぜ必要かというと、角化歯肉が存在する方がブラッシングによる口腔清掃が効果的に行えるからだ。角化歯肉がないと、薄い粘膜に歯ブラシの硬いナイロンの毛先が触れると痛いので、ブラッシングが効果的に行えないのがプラーク停滞の原因といえる。
その結果、周囲に角化歯肉を欠く薄い軟組織しか存在しないインプラント周囲は、易出血性であり、ポケットは深くなりがちで、炎症を伴うようになる
だから、インプラント周囲炎の予防として、たとえ形成手術を行ってまで角化歯肉を確保することは、手術侵襲を加えるマイナス面を差し引いても、大きなプラスが残る。決して容易な手術ではないが、インプラントを長期に安定化させたければ、やる価値は十分にあると思う。