今日のテーマも接着だ。その中でも、「シランカップリング剤」について言及したい。接着の文献を読んでいると、「シランカップリング剤」という用語が頻繁に登場し、これは接着における重要な材料だと気づく。これまで、例えばファイバーポストをレジン系セメントで歯に接着したい時、何気なくアシスタントに「はい、シランカップリング処理して」などと頼んでいたわけで、この用語は知っていたものの、この材料の重要性をあまり深く理解していなかった。しかし、この材料の果たす役割は重要だ。
シランカップリング剤は、一般にR―Si―X3の構造式で表される化合物だ。Rは有機基、Siはケイ素原子、そしてX3はシリカなどの無機質に結合する基を表している。眠くならないでくれ。自分も有機化学は苦手だ。この辺はざっくりといこう。この材料は「カップリング」という名称を持つだけに、何かと何かを結び付ける役割をしている。その何かとはシリカなどの「無機質」とメタクリルレジンなどの「有機高分子」だ。シリカなどの無機質は親水性である一方、有機高分子は疎水性で、両者は仲が悪い。水と油のようにけっしてなじまないのだ。ところが、馴染みにくい両者の間に入って仲介し、両者を結び付けるのがシランカップリング剤だ。「カップリング」の名称はここから来ている。ちなみに「シラン」という物質は何かというと、ケイ素の水素化合物らしいがややこしくて、よく”しらん”!(^^)!。
この「シランカップリング剤」は、1987年の文献(1)では、コンポジットレジンのフィラーとレジンとを結合させる鍵となる重要な材料として登場する。コンポジットレジンは強度を増すために、石英やシリカから作られるフィラーとよばれる硬い粒子が軟らかいレジンに混ぜられている。この時、親水性の無機質のフィラーと疎水性の高分子有機のレジンを強く結び付ける材料がシランカップリング剤だ。
このシランカップリング剤は、コンポジットレジンにおけるフィラーとレジンのカップリング剤として使用されるだけでなく、現在では、補綴の主流となりつつあるセラミックスを、接着性レジンを介して、形成した歯面に接着させる際に使用される必須の材料となっている。セラミックスは、シリカを含むシリカ系セラミックスとそれを含まない非シリカ系セラミックスに別れるが、シリカ系セラミックスのクラウンやインレーを歯面にレジン系セメントで接着する場合には、レジンセメントをセラミック冠内面に盛る前に、必ずセラミック冠内面にシランカップリング剤を塗布しなければならないことになっている。セラミックはSiO2が主成分であるゆえに、シランカップリング剤がよく結合する。したがって、接着性レジンとセラミックスが強力に接着することになる。
参考文献:(1)西山典宏、早川 徹. シランカップリング剤について.AD Vol.5 No.3,4 129-133. 1987.