咬み合わせと姿勢は従来から関係があると考えられていたものの、それを証明する研究手段の問題もあって、咬み合わせは姿勢に影響を与えるか、否かについては賛否両論あった。しかし、最近になって、咬み合わせは姿勢と密接に関係がある、とする報告が多く出て来ている。
咬み合わせが姿勢に影響を与えるか、否かの研究結果は、その研究手段や研究デザインが関係する。姿勢を評価するパラメーターとして、何を選択するかということも重要だ。たとえば、重心動揺計を用いたデータはデリケートで、誤差が入る可能性がある。また、臨床的にインパクトのある研究デザインは、人を対象として実験群は咬み合わせを操作して片側でしかし咬めないようにしておき、それ以外の条件を対照群とそろえて一か月間なり一定期間生活させ、脊椎の湾曲を計測し、片側での咬合を強いられた群に脊椎側弯の傾向が有意に認められることを立証する,というような研究デザインが考え得るが、現実にはそのような研究は倫理的に実現しない。したがって、なかなか、咬み合わせが姿勢に影響を与えることを決定的に証明する報告は出にくいのだろう。
しかしながら、姿勢を評価する方法を別の切り口で検討すると、咬み合わせが姿勢に影響することが明らかになってくる。「咬み合わせがバランスを失うと姿勢が変化する」、ということをもっと明瞭に表現すれば、「下あごの骨に左右不均等な咬み力が加わると、頸椎が歪み、その頸椎の歪みは脊椎全体を歪ませる」という表現になるだろう。脊椎の歪みをパラメーターとすれば、咬み合わせがパラメーターに有意な変化を起こさせることを捉えやすい。そして、それは事実である。このことは、有限要素法解析や動物実験で証明され得るし、そのような実験結果が実際、報告されている。また、人において一時的に咬み合わせを変化させると、脊椎のアライメントが明らかに変化する、すなわち姿勢が変化することが報告されている(1)。前述の報告では、脊椎の歪みは超音波の使用により測定されており、従来の計測法より精度が向上してきていることも結果の信憑性につながっている。
最後になるが、咬み合わせと姿勢に関した私のリポート、”咬み合わせと姿勢”を本HP内の”デンティスト”で紹介しているので、是非、読んで行って欲しい。
参考文献:
Ohlendorf D, Seebach K, Hoerzer S, Nigg S, Kopp S.
Spine J. 2014 Oct 1;14(10):2384-91. doi: 10.1016/j.spinee.2014.01.045. Epub 2014 Jan 31.