咬み合わせと健康との関連性を考える上で、ブラキシズムは極めて重要な要因だ。「ブラキシズム」とは、「食いしばりや歯ぎしり、不随意の下顎運動を特徴とする反復性の咀嚼筋活動」と定義され、睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムに分けて考えられている。睡眠時ブラキシズムは睡眠中の歯ぎしりや咬みしめの総称であり、覚醒時ブラキシズムは、パラファンクション(非機能的なもの)として習慣性咬みしめ、口腔習癖、歯の接触癖(Tooth contacting habit)などさまざまのものが含まれる(1、2、3) 。
ブラキシズムの成因として、以前は不適切な咬み合わせがブラキシズムを誘発すると考えられていたが、現在では、多くの研究結果から歯根膜感覚によりブラキシズムが生ずるとする末梢説はほぼ否定されている。わかりやすく言えば、不適切な咬み合わせがブラキシズムを発生させるとは考えられていない(4)。
現在では、口腔顔面形態と睡眠時ブラキシズムとの間に相関関係がないこと、また無歯顎の被験者でも睡眠時にブラキシズム様の咀嚼筋活動のリズミックナな緊張が起ることより、その機構は未だ十分解明されているとは言えないが、様々な要因が複雑に関与して中枢神経系に働き、ブラキシズムが起こると考えられている(5)。中でもストレスの関与は注目に値する。最近、不安障害であるパニック障害やPTSD( Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)において健常者より低レベルであることが知られている抑制性神経伝達物質GABA(ガンマーアミノ酪酸)が、ブラキシズムをする人においてもやはり低レベルであることが報告されている。これは、不安やうつといった精神的要素がブラキシズムの発生要因として大きく関与していることを示唆しており、興味深い(6)。
ブラキシズムは顎口腔系に様々な悪影響を及ぼすことが知られている。歯に対しては、咬耗、楔状欠損、破折、歯周組織に対しては、咬合性外傷、不快感をもたらすことがあり、顎関節に対しては、外傷性の変化、疼痛をひきおこすとされている。また、咀嚼筋の筋疲労、疼痛、筋肥大や顎骨の肥大、ひいては補綴物の破壊を生じることもある(7、8)。さらに、それ以外に、起床時の不快感、家族の不眠、筋収縮性の緊張型頭痛や顔面痛を生じさせることもある。
ここで重要なことは、顎口腔系の過剰な筋緊張とそれに引き続いて起こる口腔破壊の主な原因はブラキシズムであることだ。さらに、顎口腔系の過剰な筋緊張は、頸部の筋肉の過剰な緊張と、後述するようにそれが、頭痛、腰痛、関節痛、等の慢性疼痛につながる可能性があることを考えると、ブラキシズムを、唯一、管理できる立場にある歯科医の責務は極めて重大だ。
Fig.1 ブラキシズムにより発生した歯の摩耗.
Fig.2 ブラキシズムによる修復物の破折.
Fig.3 ブラキシズムによる歯の破折. FIg.1,2,3は文献(8)より引用.
参考文献:
3. 顎機能障害の診断と発症要因を考慮に入れた治療―パラファンクションと顎機能障害の発生―. 馬場一美,小野康寛,西山 曉. 日補綴会誌 2009;1:7-12,
7. 佐藤貞夫, 玉置勝司, 榊原功二. ブラキシズムの臨床 その発生要因と臨床的対応: 2-12.東京.クインテッセンス出版.2009.
8. Gross M. The science and art of occlusion and oral rehabilitation:75-88. London. Quintessence Publishing. 2015.