そもそもジルコニア冠が世に出た時のものは単層構造でした。光透過性がなく、真っ白で審美性がよくありませんでした。だから、従来のPFMが金属(Metal)に陶材(Porcelain)を焼き付けて(Fused)金属色を隠したように、ジルコニアのフレームに陶材を焼き付けてジルコニアの色を隠したのです。この状態がいわゆる“ジルコニアボンド”です。しかしながら前装部の陶材は従来の強度の弱い長石系なので、強いものと弱いものが同居しているがゆえの問題点が出てきたというわけです。
そこで、この問題を解決する方法として着目されたのが、ジルコニア単独で修復物を製作する方法です。前装陶材に頼らず、ジルコニア単体で審美面も満足できるものができればこの問題が解決できるわけです。そこで、最近開発されたのが光の透過性を高めたジルコニアで、高透過性PSZ(部分安定化ジルコニア)といいます。
世に出始めたころのジルコニアは正方晶ジルコニア多結晶体(従来型TZP)というもので、結晶相の大部分が正方晶(tetragonal)で、約3mol%のイットリア(Y2O3)と約0.25wt%のアルミナ(AL2O3)を含有していました。これを3Y-HAと称します。前述のように従来型TZPは光透過性が低い難点を有していたので、最近になって次々とこの従来型を改良したものが登場してきました。
まず、アルミナの含有量が多いと透光性が低下するので、アルミナの含有量を0.05%にまで減少させることによって透過性を向上させた高透過性TZPが登場し、これを3Yと称します。
次に、イットリアの含有量を5mol%に増加し、透過性をさらに向上させたものが高透過性PSZ(部分安定化ジルコニア)で、5Yと称します。この結晶相は立方晶(cubic)が多く、ダイヤモンドと同様に偏光が生じないので透過性がさらに良くなりました。半面、PSZ系ジルコニアはTZP系ジルコニアに比較して機械的強度が低下するという弱点を併せ持つようになります。
さらに、イットリア含有量を4%、6%に増加させたもの(4Y,6Y)や、単層ではあるがグラデーションに着色された積層構造(multi layered)のもの(組成はモノリシックだが色の層が積み重ねられている)、あるいは切端側が透過性の高い層、歯頚部が機械的強度の高い層を配した二つのジルコニアの積層構造のもの(3Y-5Yや4Y-5Y)など、次々と販売され始めています。
(次回に続く)