動脈硬化は老化と密接な関係があるので、今日のテーマは「動脈硬化」だ。
動脈硬化の発生・進展に関する概念は、歴史的に変遷しており、古典的炎症説、脂質沈着説、血栓原説、平滑筋増生説を経て、今日ではほぼ「炎症説」に集約されているようだ。
大動脈の動脈硬化には粥状硬化症と加齢性中膜変性硬化症が関連している。そして、人の粥状動脈硬化の早期病変は、内膜肥厚と脂質沈着ならびにマクロファージ浸潤に特徴づけられる。ここで、動脈内膜内の脂質沈着とマクロファージ浸潤はどちらが先か?という疑問が起るが、この点に関しては、脂質沈着はマクロファージ浸潤に先行して肥厚内膜深部に発生することが明らかとなっている。この部分が重要で、早期の細胞外沈着脂質が血管壁における炎症発生の引き金となると考えられている(沈着反応説)。
次に、早期動脈硬化病変でのマクロファージの主な浸潤経路は、内膜表層からと考えられている。すなわち、脂質沈着部位の平滑筋細胞にMCP-1(monocyte chemotactic protein-1 )の発現を認めること、沈着脂質の多くは酸化脂質であることから、酸化ストレスによる平滑筋細胞からのMCP-1の発現が単球・マクロファージの内膜内への細胞浸潤を引き起こしていると考えられる。
さらに、栄養供給により粥腫が形成→粥腫への白血球動員による炎症促進→透過性亢進・出血による粥腫内凝固亢進と炎症促進→新生血管の血栓形成、壊死コアの拡大のプロセスを経て、粥腫の形成が進行する。そして、粥腫は血管新生、菲薄な線維性被膜、豊富な脂質(コレステロールエステル)、偏心性粥腫の形成というプロセスを経て破たんへと向かう。
ここまでのところを整理すると、
1 動脈硬化は、内膜への脂質沈着から開始される。
2 続いて、内膜内にマクロファージが浸潤する。
3 さらに粥腫が形成されるが、このプロセスの本態は、「炎症と修復」である。
結論として、動脈硬化という現象は炎症反応として捉えるべき病態ということだ。
参考文献:
(1)居石克夫,中島 豊.動脈硬化症の成り立ち:「沈着反応説」と「炎症説」.CARDIAC PRACTICE.Vol.19 No.3 23-27.2008.
(2)中嶋絢子,植田初江. 動脈硬化の病理学 糖尿病の大血管病変をミクロで見ると. 糖尿病診療マスター.Vol.14 No.3 187-193. 2016.