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院長ブログ

サルコペニアの発症メカニズム


 筋力の衰えは老化の重要なサインであると思う。ところで、加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)というのがあるが、高齢者が寝たきりや転倒による要介護状態になる原因として、最近、注目されている。この加齢性筋肉減弱症(サルコペニア)の最近の研究から、筋肉を徐々に減少させていくメカニズムがある程度、解ってきた(1)。
  この発症メカニズムの分子モデルはこうだ。IGF-Ⅰ(インスリン様成長因子Ⅰ)は運動刺激や成長ホルモンに反応して、肝や筋細胞、骨芽細胞で産生される成長因子であるが、これは筋肉や骨の成長を促進する。IGF-Ⅰがその受容体に結合すると、受容体のチロシンキナーゼ活性が上昇し、その情報伝達分子であるIRS-Ⅰ、PI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)、Akt の情報伝達分子がこの順でリン酸化(活性化)する。活性化されたAktは筋蛋白質合成を更新する。一方、IGF-Ⅰ受容体のチロシンキナーゼ活性の上昇は、別経路でFOXO(fork head box 筋委縮関連遺伝子転写因子)の核内移行を妨げることにより、筋委縮関連遺伝子の発現を抑え、筋萎縮を抑制する。つまり、IGF-Ⅰの刺激は、筋細胞の受容体を介して、筋肉を増量させるのだ。
 ところが、寝たきりや無重力の環境では、筋細胞のIGF-Ⅰに対する感受性が低下しており、その結果、IGF-Ⅰが受容体に結合しても、その情報を核内に伝えられないため、筋肉形成は抑制される。同時に筋肉萎縮関連遺伝子の発現を許すために、結果として筋萎縮が亢進する。寝たきりや無重力の環境下では、形成と破壊のバランスが破壊に傾き、結果として筋肉の萎縮が起こるわけだ。
 以上を要約すると、運動刺激に端を発してIGF-Ⅰが筋肉の増量に向けて作用する、運動が欠乏した状態ではIGF-Ⅰが機能しなくなることで筋肉が委縮に傾き、サルコペニアが発症する、ということになる。

 上記以外の分子レベルのサルコペニアの発症モデルとして、ミトコンドリア機能との関係が注目されている。骨格筋ミトコンドリアの機能の一つに、筋の質的・量的調節があるのだが、サルコペニアでは骨格筋ミトコンドリアの機能低下により、筋肉が減少する可能性が示唆された。最近の基礎的研究で、降圧薬であるアンジオテンシンⅡ受容体阻害薬をラットに投与し続けると、骨格筋の脂肪酸β酸化を増大させ、さらに骨格筋が増量する事実が報告されている(2)。特に、PPARγ(ピーピーエイアールガンマ、Peroxisome Proliferator-Activated Receptor γ:核内受容体スーパーファミリーに属する蛋白。遺伝子の転写の調節をする。リガンドの特異性は低く、多くのリガンドと結合する。アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬の一部のものもPPARγのリガンド。作用性ARB(SPPARM)(ARBとはアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬のこと)を長期間投与すると前記の効果が得られるという。本来、アンギオテンシンⅡ受容体阻害薬は血圧を下げるための薬剤だが、その核内受容体PPARγは血管内皮細胞以外にも,脂肪組織をはじめ、骨格筋を含めて多くの組織に存在するため、血圧調節以外にも骨格筋の増量などの効果が発現するのだろう。  

 このSPPARMの効果は、ミトコンドリアに作用し、ミトコンドリアDNAの増加、ミトコンドリア転写因子A、熱産生調節に関わるUCP3,酸化ストレス消去にかかわるMnSODなどの発現を増加させ、ミトコンドリア機能を活性化させると考えられているようだ(2)。骨格筋ミトコンドリアの活性化は筋肉の増量へとつながる。よって、筋肉が減少するサルコペニアでは、何らかのミトコンドリア機能不全が起っていると考えられるわけだ。サルコペニア治療薬としてのアンギオテンシンⅡの可能性が示唆されている。
 
 さて、本日のポイントだが、骨格筋減少の原因は運動の不足だということだ。運動不足がIGF-Ⅰに対する感受性を低下させる。また、運動の不足が骨格筋ミトコンドリアの機能不全を招く。その結果、筋肉量が減少するのだ。
 
 では、骨格筋の減少は加齢現象であり、避けられないことなのか?いや、違うのだ。骨格筋は加齢により、必ずしも減少しない。われわれの体の中には、一生涯、老化に逆らって成長できる組織があって、それが骨格筋だ。骨格筋は使わなければ委縮するが、使えばいつでも成長できるポテンシャルを持っている。よって、一生涯、成長したいなら筋肉だ。加齢に逆らって筋肉を一定量保つことは、筋肉トレーニングにより可能でしょう!年をとっても、体を使って、行動量を若いとき同様に維持することが大切だ。あるいは、若い頃よりさらにいっそう体を使う量を増やすこと。そうすればいつまでも若々しいフィジカルを維持できるのだ。筋肉を減らさない!これぞ、アンチエイジングだろう。
 
参考文献:
1)河野尚平, 二川 健.サルコペニアの発症メカニズム.医学の歩み.Vol.236.No.5. 535-539.2011.
2)杉本 研.サルコペニアにおける骨格筋ミトコンドリア機能とMiokineの意義. 日本老年医学会雑誌. Vol.49(2).199-202.2012.