今回の日本口腔インプラント学会は「より適切で確実なインプラント治療へ」というテーマで福岡国際会議場と、それに隣接する福岡サンパレスホールで開催された。
会員が1万3千人を数える大学会なので、会場も広く、いろいろな会場で多くの一般講演、各種セミナー、ワールドサテライト(海外招待講演)、国内招待講演、ランチョンセミナー、テーブルクリニック、等が同時展開されるので、どれを聴こうかと迷う程内容が豊富で楽しい学会だった。
初日の午前は、メインホールで行われた“臨床の疑問に答える”というテーマのセッションを午前9時から12時まで連続で聴講した。
なかでも歯科技工士である辻 貴裕氏の“デジタル技術を生かしたインプラント補綴設計から上部構造製作の実際”という演題は興味深かった。
理想的なインプラントブリッジとしてチタンフレームにチタン専用セラミックを焼き付けたチタンセラミックブリッジが提案された。キャストの時代には考えられなかったデザインとマテリアルがCAD/CAMの普及と共に現実のものとなった。
当然、インプラント周囲炎の管理の観点から最近の主流となってきているスクリューリテイン方式が前提となるが、この方式の弱点であるスクリューホールが機能咬頭に設定される可能性を克服する方法として、インプラント植立手術以前のコンピューターによるシミュレーションサージェリーにおいて、テクニシャンと歯科医がコラボしてインプラントのプレイスメントを決定するやり方の提案は良いアイデアだと思った。コンピューターシミュレーションでは、インプラント植立以前の段階で最終補綴物の三次元形態がコンピューター画面上の口腔に反映され、機能咬頭を避ける位置にインプラントをプレイスすることも、慎重に位置決めすれば可能となるからだ。
スクリューホールが機能咬頭に来ない限り、スクリューリテイン方式はセメントリテイン方式に対して圧倒的に優位性を持つ。したがって、デンタルクリニックとデンタルラボが、同じシミュレーションソフトを共有するアイデアは非常に有用だと思う。そして、デジタル化が進む近未来では、実際そうなるだろう。
午後のセッションは海外招待講演を聴講した。最初の演者は著名なノースカロライナ大学のリンドン・クーパー先生で、“On the role of Monolithic Zirconia restorations in implant Prosthodontics”という演題の講演をされた。
魅力的素材であるジルコニアを用いた各種インプラント補綴が紹介されたが、チップしない補綴物が生体やインプラント体そのものに今後どのような影響を及ぼすのか演者も含めて誰も知らない、というコメントは印象的だった。
二人目の演者はベルン大学医学部 顎顔面外科講座教授 飯塚建行先生によるBRONJ(ビスホスホネート関連顎骨壊死) の治療に関する講演を興味深く聴講した。
現在の我が国では、BRONJに対しては温存療法が主流で、積極的な外科治療は行わない傾向にある。
しかし、飯塚教授はBRONJに対しても積極的に外科治療を行い、口腔内に壊死した顎骨が露出する状態を漫然と放置していないようだ。飯塚教授の講演は何年か前に日本口腔外科学会の特別講演で聴講した経験があるが、非常にシャープな頭脳の持ち主で、クリヤーカットな講演内容であった記憶があるが、今回の講演も素晴らしかった。ビスホスホネートが投与されていても、骨のターンオーバー能にはかなりの個体差があるので、勝算があれば、徹底したインフェクションコントロールの下、外科手術に臨んで、よい成績をあげているようだ。決して流暢な英語ではないが、内容が非常に素晴らしく、日本人が行う英語講演とはかくあるべきだろう。
夜は博多駅近くの居酒屋さんで夕食を取り、締めはやはり博多ラーメンだった。