今日は筒井塾 咬合療法コース3日目です。
午前中は咬合療法の一つの肝である最適な下顎位についての講義と実演でした。
従来の限界運動に基づく咬合論では、最適な下顎の位置は頭蓋骨下面のクボミである下顎窩に対する顆頭(下顎骨の関節突起の上端)の位置によって決定されて来ました。
この決定法によれば、たとえば窪みの中央とか、あるいは前上方に顆頭が位置する時に最適な下顎位である、というようないい方になります。
そして、ナソロジーを源流とする多くの咬合論はこの頭蓋骨と下顎骨との位置関係によって、下顎位を論じてきました。これらは、骨は硬いので簡単には変化しない、したがって基準点になり得るという前提で発展した概念といえます。
そして、不変の基準点を必要とした理由は、咬合器という人間の咬み合わせ( の一部)を再現することを目的とした機械に正確にトランスファー(写し取る)するために、どうしても必要であったといえます。頭蓋骨と下顎骨との三次元的位置関係を規定するのに基準点がないと困るからです。
そして、従来のナソロジー系の補綴学派は咬合器で再現できる下顎運動として何を目指したかというと、それは限界運動だったのです。
つまり開閉口したり、上下の歯を接触させながら下顎を前に突き出したり、側方に滑走させる運動(歯軋りの動きがこれにあたる)を咬合器で再現させることを重視し、その再現を目指していました。
そして、この咬合器を使用して患者さんの咬み合わせを構築すると、補綴物は長期の使用に耐え、患者さんはいつまでも快適に咬み続けられると主張してきました。
筒井昌秀先生、照子先生もこの咬合論を習い、それに基づいて精緻な補綴物を一生懸命作り続けてこられました。
しかし、その結果はというと、次々と補綴物が壊れていったそうです。
そして、悩みに悩み、なぜ壊れるのかを考えぬいた揚句、ついにその理由を発見しました。
その理由とは、補綴物が壊れるのは限界運動しか再現できない咬合器上で作製するからだ、ということです。
限界運動とは非機能運動であるブラキシズム(歯軋り)にほかなりませんが、人間の下顎は機能運動である咀嚼や発音、嚥下を行っています。
そして、咀嚼運動は限界運動とは全く異なる動きなので、咀嚼運動を妨げる上下の歯の位置関係が存在すれば、その部分は壊れるはずです。
筒井先生は咬合の問題における咀嚼運動の重要性に気づかれました。咀嚼運動に適した歯列や咬合面形態でなければ、咀嚼運動によって歯が壊れるのです。
さらに別の気づきとして、生態に不変の基準点など存在しないということです。
骨は外力に適応してその形態を変化させるという原則があるので、骨の形態も絶えず変化しているという生理学的事実に気づかれました。
骨は機能に従ってそれに適した形態に変化するというWolfの法則に照らしても、このことは十分うなずけます。
顎関節窩や下顎頭の形態はいくらでも状況に応じて変化するにも関わらず、これらに基準を定めて最適の下顎位を議論すること自体、無意味であると確かに思います。
だから筒井先生は、最適な下顎位は変化する骨の形態から規定し得るものでなく、下顎の運動に関連する多くの筋肉群がリラックスした状態でバランスがとれているポジションを最適なポジションと規定するべきと考えられています。
最適の下顎位のことを筒井先生はリラックスポジションと呼び、それは術者が患者さんに与えるものでなく、患者さんが教えてくれるものだと説かれます。
リラックスポジションの採り方の実演としてフィンガーガイドテクニックが紹介されました。3本の指で下顎を下から軽く抑え、そっーと患者さんに咬んでもらう方法です。
また、咀嚼運動を解析する咬合分析機である「ナソヘキサグラフ」や咬合力を客観的に定量化出来る「オクルーザー」、下顎の位置によって全身の重心が変わることを敏感に感じ取れる「グラビコーダー」の使用法も実演で示して頂きました。
その夜のポートピアホテルでの懇親会では、受講生の1人としてスピーチさせて頂く機会を頂きました。
とても素晴らしいコースを受講出来て、本当に感謝していることを述べ、将来は医学と歯学とが融合する方向に向けて自分は努力していきたいと抱負を述べると、筒井先生がほほ笑まれて握手してくださったのには感激です。
歯学の全身健康にもたらす威力の大きさは絶大であり、国民を元気にし、幸福へと導くためにわれわれ歯科は医科と今以上にもっと連携していく必要があると心底、自分は思っています。咬合療法はそれを実現する要の部分だと思います。