歯周病になるとなぜ骨が破壊されるのだろう?まず、歯周病原菌が歯周ポケットに感染すると、細菌毒素であるリポ多糖体(LPS)が周囲組織を刺激して炎症反応を惹き起こします。と同時に、LPSの刺激は一連の免疫系ネットワークを介して、免疫応答とよばれる生物反応も同時に惹き起こします。
そして、一連の炎症反応、ならびに免疫応答の結果、骨を吸収する能力を持つ破骨細胞が活性化されることにより、結果として骨の吸収が起こるのです。
この破骨細胞の活性化の機序も最近明らかとなりました。破骨細胞の前駆細胞(破骨細胞に分化する前の細胞)の膜表面にはRANK(ランクと発音します)という受容体が存在し、この受容体にRANKL(ランクリガンドと発音します)という生理活性物質が結合することにより、そのシグナルが破骨細胞の核内にまで伝わり、破骨細胞に分化するシグナルがスイッチオンされる結果、破骨細胞が登場し、骨吸収が開始されるわけです。
そして、このRANKLは骨芽細胞という、骨を形成する細胞の膜表面から分泌されて来ます。さらに興味深いことは、このRANKLの働きを抑え込むようにこれと競合して、オステオプロテグリン(OPG)という生理活性物質がRANKと結合する事実があります(RANKLを惑わせて、RANKではないのにRANKLと結合するので、RANKLのおとり受容体と呼ばれています)。つまりOPGはRANKLの働きを抑制するので、骨の吸収を抑え込む働きをします。このOPGは骨組織においては骨芽細胞やその前駆細胞から産生されます。骨芽細胞は破骨細胞を活性化させる働きをする一方で、破骨細胞を抑制する働きをも同時にしていることは興味深い点です。
さらに興味深いことは、OPGは骨組織に限らず、肺、心臓、腎臓、肝臓、胃、腸、脳、脊髄、甲状腺など、多くの臓器に認められることです。これらの臓器に置けるOPGの役割はまだ不明ですが、この事実は、OPGは骨の代謝に限らずいろいろな臓器における生物学的イベントのコントロールに関与していることになり、生命現象の深い部分に関わっている可能性があるということです。
このような展開を見ると、歯周病という口腔局所の疾患のメカニズムを勉強することは、すなわち生体を全体としてとらえる医学そのものを勉強することに他ならないことに気づきます。今、歯科医学の中において、歯周病と全身疾患とのかかわりを研究するペリオドンタルメディシンが勃興してきていますが、ペリオドンタルメディシンの研究を通じて、歯科医学は、結局、医学と深く関連していることにあらためて気づかされます。これからの歯科医学が志向していくべき方向性を感じます。